【漫画】元相方が漫才コンテスト優勝、自分は崖っぷち……芸人の葛藤描いたSNS漫画『余白の世界』に脚光
――『余白の世界』には多くのいいねが集まっていますが、これについて作者ご自身としてどう捉えていますか?
山原中(以下、山原):周囲の感想を聞いていると、上手くいかない描写が多めだけど最後に救いがある終わり方がよかったようです。
――データや論理で考える主人公と自由に楽しいことを考える相方の対比が効果的に表現されていましたが、このアイデアはどこから? またご自身はどちらの考え方だと思います?
山原:テーマと起承転結から考えて、それを一番効果的に表現できるような対立するキャラクター像を考えていきました。自分は両者の中間くらいかなと思います。
――データの「キャッシュ」を比喩で使った点についても教えてください。
山原:もともと仕事でパソコンを使っていて、特に当時使っていたものはすぐキャッシュが溜まるので定期的にクリーニングをしなければならなかったんです。タイミングとしては、特にアプリを多く起動しているわけでも大きいデータ処理をしているわけでもなくPCが重くなる時でした。
表面上は何も問題ない状態なのに、クリーニングを始めると大量に溜まったデータが長時間かけて消されていく。自分もそんな状態の時があるので「自分にもキャッシュ消去ボタンがあればいいのに」と考えていたんです。それを知人に何気なく話したら、意外にも共感してくれて「意外とあるあるなのかな?」と。
――なるほど。
山原:それから漫画ではキャッシュを「ゴミ」としましたが、実際には便利な機能でもあるので表現には迷いましたね。実際の役割の注釈を付けるとか、あれこれ悩んだのですが「あるキャラクターの日常会話の流れの自然な発言なんだ」と割り切ってそのまま描きました。
――どこか今の社会を描いているような印象も持ちましたが、そういう意図もありますか?
山原:その意図はないですね。自分の悩みや考えていたことを落とし込んで描いたときに、同じ時代に生きている似た状況の他の方にも結果的に刺さってくれたのかなと思っています。
――本作は「2021年前期・第79回ちばてつや賞一般部門」で大賞を受賞されていますが、今振り返るとご自身にとってどんな作品でしょう?
山原:ちょうど受賞したのが商業漫画家を諦め、バイトをしつつコミティアなどで自主制作を続けようかなと考えていた時期だったんです。賞をいただいて「やっぱり商業漫画家をもうしばらく目指してみよう」と、この道に引き戻された作品でした。
――「今ならこう描く」という点などもあれば教えてください。
山原:稚拙な部分も多いのですが、当時の精一杯なのでこれはこれでいいかなと思います。
――憧れ、影響を受けた作品や作家はいますか?
山原:そういう作品や作家さんは多すぎるので挙げきれないですね。ただ本作では主線太めで白黒のベタをハッキリさせ、読みやすくスタイリッシュな印象にしようと努めました。
――作家としての展望、なりたい作家像を教えてください。
山原:読み切りしか描いたことがないので、連載をしてみたいです。理想は自分の描きたいことや好きなものを描きつつ、それで読者の方に喜んでいただける漫画が作れたら最高です。それは難しいかもしれませんが、とりあえずは業界のなかで絵を描くことや話づくりに何らかの形で携わり続けられたらいいなと思っています。