【書店危機】今必要なこと『ブックオフから考える』谷頭和希が提言する“せんだら需要”と“非画一性”

■書店の価値を今一度検証するべき

書店は、実際に本を手に取って選べる場所の強みを検証していくべきだと話す谷頭氏

――書店が今後、生き残っていくためにはどうすればいいのでしょうか。

谷頭:消費者、すなわち読み手のニーズをいかに捉えるのかが大事だと思います。日本の出版業界全体の問題点として、出版社、取次、書店が独立して仕事をしていて、消費者に届くまでのところで連携が取れていないことがある。江戸時代まで遡ると、この三者は一体化していたんです。作り手と読み手も近かったし、境界線がない、ある種の共同体ができていた。もう一度、作り手と読み手の関係を強めていけば、売れる書店は作れると思うんですよ。

――書店の本当の価値を、考え直す時期に来ているのかもしれませんね。

谷頭:書店がこれまで担ってきた、ただ品物があるだけの空間はもう限界でしょう。それならAmazonでいいんです。物理書店という、実際に本を手に取って選べる場所の強みを検証していかなければなりません。それは人と人との交流や、知らなかった本に出合えるなどの価値だと思う。これは、コロナ禍で人と会わない時期が続いた中で、見直されてきた価値観です。人と人が集まる「ハブ」的な役割もあった書店の意義を、見つめ直すべきではないでしょうか。

――そういった意味では、今年リニューアルしたばかりの渋谷のTSUTAYAは、イベントスペースなども設け、人を集める空間として成功していると思います。

谷頭:渋谷のTSUTAYAの路線はとても面白いと感じました。まっさらな空間にポップアップストアを出し、あくまでもここはIPを楽しむための場所を提供するんだ、とかなり振り切っている。個人的にはIPをリアルの場で扱う上での最適解だと思います。チェーン店も試行錯誤をしているのだから、中小の書店も自身の価値を考えていかないと、いくら国がお金だけ出しても無駄金で終わってしまいかねません。

――谷頭さんが考える、魅力的な書店のイメージはありますか。

谷頭:僕が最近考えているのが、“せんだら需要”というものです。千円以下でだらだらできる場を、人は求めているんじゃないか。地方の郊外では、大きい書店の中にカフェなどの機能を持たせて、人が集まる空間をつくっている例がありますが、意外にも都心ほどそういう場所が少ないんですよ。待ち合わせに20分早く着いた時、ドトールもスタバも混んでいたりするじゃないですか。そんなとき、ぶらぶらできるような書店が必要だと思います。

――昔の書店はその機能を果たしていました。空き時間に気軽に立ち寄り、そのついでに本を一冊買ったりする場所でしたよね。

谷頭:まさにそうですね。基本は、多くの人が行って楽しいと思える書店が一番で、これまでの形にこだわらなくていいと思います。本は人と人とを繋ぐ鎹のような存在だと思います。ある意味、そういう機能を果たしてくれればいい。人と人との出会い、人と物との出会いを促進する書店があったら面白いし、もしかすると、そういう書店は、もはやこれまで私たちから考える「書店」という佇まいではないかもしれません。その意味では「書店らしくない書店」が増えると楽しいんじゃないかと思ったりしています。

  ただ、外部から黒船的な企業がやってこないと、内部から書店の改革は難しいのかなとも思います。例えば、スタバやモスバーガーなどの企業が自社で本を制作し、書店を始めたら劇的に変わるでしょう。もちろん、現実的にはさまざまな問題があってなかなかできないでしょうけれど……。向こう10年くらいで何かしらの変化は起きそうな気もしますが、今こそ書店業界の英知を結集して、書店らしくない書店が増えてほしいと願っています。

■谷頭和希プロフィール


  チェーンストア研究家・ライター。1997年生まれ。チェーンストアや、それらを取り巻く都市文化についての発信を続ける。東洋経済オンライン、現代ビジネス等各種ウェブメディアに寄稿。著作に『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』 (集英社新書)、『ブックオフから考える 「なんとなく」から生まれた文化のインフラ』(青弓社)がある。テレビ・動画出演は『ABEMA Prime』『めざまし8』など。ポッドキャスト番組に『こんな本、どうですか?』。

 

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