宝島夫妻殺害事件から考える、上野という街の特殊性 本橋信宏「現金商売というのは揉めやすい」

本橋信宏に聞く、宝島夫妻殺害事件の背景

 先月、栃木県那須町で発見された、二人の遺体。この二人は、東京の上野で飲食店を経営する宝島龍太郎さんと、その妻の幸子さんだった。

 現在は夫妻の長女と内縁関係にあった関根誠端容疑者が事件の首謀者として逮捕され、さらに関根容疑者の指示のもとで殺害を実行したり犯行現場を提供したとされる犯人たちが、次々と逮捕される状況となっている。

 宝島さんと関根容疑者、そしてその周辺の人々の人間関係が色濃く影を落としているこの事件。その舞台となった上野という街は、美術館や博物館など多数の文化施設があり、さらに専門店がひしめくアメ横や活気のある飲屋街などでも知られる人気スポットだ。そんな街で発生したこの事件には、どのような背景があったのか。地形そのものの成り立ちから近世〜現代に至るまでの歴史、さらに現在の上野に住む多様でどこか怪しげな場所と人々に迫った『上野アンダーグラウンド』(新潮文庫)の著者である本橋信宏氏に、この事件に関する意見を伺った。

移民の多い街ならではの商売

──被害者である宝島龍太郎さんですが、報道によれば中国の北朝鮮国境に近いエリアの出身であることが判明しています。

本橋:中国の人はめでたいものをありがたがったり縁起を担いだりという人が多いですから、「宝島」というちょっと変わった苗字をつけていたのでは。そもそも、上野という土地は終戦直後には中国人や朝鮮半島出身者、台湾人が幅を利かせていた土地です。その歴史から、今でも中国にルーツのある人が数多く住んだり商売をしている。宝島さんも、そんな一人だったのではないでしょうか。

──移民の多い街でもあるわけですね。

本橋:彼らは非常にタフでハングリーです。売れる商売こそが正しいという信念があるから、去年まで洋服を売っていた店が今年はアクセサリーを扱っていたりする。スカスカの刺身を値段を釣り上げて売っていることもあれば、本当に珍しいものがポロッと店頭に並んでいたりもする。そういう街だから、いろいろなものの発祥の地でもあるんです。例えば「キャバクラ」という業態の発祥の地は上野だとされています。

──そうなんですか?

本橋:上野発祥の大キャバクラチェーンがふたつあるんです。そのほかにも飲食や風俗産業において上野から生まれたり、大きくなったものはたくさんあります。まさに玉石混合なんですが、その中でも移民たちは性根がすわっているから商売が成功する確率も高いし、そうなればどんどんビジネスを大きくしていきます。その過程で身内同士の軋轢が発生することもありますし、敵を作りやすいという面もありますが。今回の事件も、そういった側面があったのではないでしょうか。

──宝島さんはサンエイ商事という飲食や不動産、労働者派遣も行う企業を経営し、上野周辺で数多くの飲食店を抱えていました。この宝島さんのお店に関して、本橋さんは何か噂などを耳にしたことはありますか?

本橋:自分は酒が飲めないというのもあって、直接店に行ったりということはないんですが、サンエイ商事についてはここ1〜2年の間に「近年勢いのあるグループである」と聞いたことがありました。上野は常に勢いのいい会社が集中していますが、その中でも特にすごかったはずです。ただ、飲食も風俗も基本的に現金商売ですよね。現金商売というのは揉めやすいんです。

──そういうものですか。

本橋:風俗店の従業員が店の経営者を殺して店を乗っ取ろうとしたとか、そういうことは自分の知り合いの知り合いくらいの距離でも起きたことがあります。現金商売だとどうしても目がくらむのか、そういうことは水面下でよく起こるものなんです。上野で手広く商売をやっていたということだと、話がこじれて身内から裏切られて……ということはあるでしょうね。……今回、遺体が発見されたのって那須の方でしたよね?

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