ちいかわ、なぜ現代人を魅了する? “癒し”の存在だけじゃない、過酷な世界で生き抜く姿へのシンパシー
過酷な世界で純粋さを失わない強さ
しかし、漫画のストーリーを読み進めていくと、それだけではない魅力に気づく。弱肉強食が掟とされる『ちいかわ』の世界では、強い体を手に入れた途端に加虐性を顕にしたり、武器を手に入れたことで万能感に満ちてしまう様子がしばしば描写されている。ハチワレですら「でかくてつよいやつ」化した際に、一瞬正気を失ってしまうことがあった。
強くなることは厳しい世界に順応しサバイブするための術(すべ)だ。そんな過酷な世界でちいかわは力に溺れず、純粋さを失わず自分らしさを保っている。
ちいかわは非力で無力だ。だが、ハチワレやうさぎがピンチに陥ったときは、勇気を振り絞り二人を救い出す。二人が石化し取り残されたときも、状況を的確に判断し事態を収束に向かわせた。そこには、いつものような泣き虫で弱くて“不憫かわいい”ちいかわの姿はない。だが、二人が無事に戻ると途端に涙ぐみ、元のか弱いちいかわに戻る。また妖精の能力を得た際は、震えながら敵に対峙する非力な自分を思い出し、迷いを見せたこともある。しかしハチワレとうさぎの生活を振り返り、力を捨てる選択をする。
ちいかわの周りには、ハチワレやうさぎだけでなく、鎧さんやラッコ師匠など味方になってくれる仲間が大勢いる。普段は彼らに守られ、ちいかわは弱く臆病な存在でいることができる。一方で、そんな友達に守られるだけではなく自分も守りたい、彼らと一緒にいたいという強い意思が、力に溺れず踏みとどまっていられる理由なのだろう。
ちいかわの成長は現実世界とリンクしている
この作品には「突然、強い力を持った者はその力に溺れてしまう」というメッセージがあるように思える。だが、ラッコ師匠のように努力で力を得た者はその例に当てはまらないようだ。ちいかわも無力なままでいるわけではなく、先へと踏み出す描写は作中にいくつもある。草むしり検定に何度も挑戦したりと、弱くても変わろうと努力をし続けている。
私たちも同じく、激動の世界に順応しながら過ごす生活に辛さや違和感を抱くことは多い。世間がちいかわに熱狂するのは庇護欲だけではなく、ゆっくり成長していく姿に自分を重ねているからかもしれない。だからこそ、無力なちいかわが奮闘する姿に胸を打たれてします。
更新される度にSNSをざわつかせている『ちいかわ』。予測不可能なストーリーの中で、いつかちいかわの純粋さが失われる展開もあるのだろうか。ちいかわの優しさがどこまで続いていくのか、今後も見守り続けたい。