人気漫画家 生成AIに絵柄を無断学習される“なりすまし横行”に苦言「削除困難ギリギリ現行法を回避する」

■生成AIが漫画家を苦しめる存在になった

――経済界ではAIを推進する動きも見られます。日本の技術革新にはAIが必要であり、その真価を妨げるべきではないと。漫画家の間でも推進派はいらっしゃいますね。

樋口:生成AIとその他のAIを分けて考えるべきだと思います。現状の生成AIは世界中の著作物を無断で使っているから、大問題なのです。このまま推進すると負の部分が多すぎることを知っていただきたいですね。当初は僕も生成AIは漫画家を助けてくれる存在になると思っていました。ところが、蓋を開けてみたら、使い勝手が悪い上にあまりにリスクが大きく、とても使えませんでした。他人の所有物を勝手に使ったものなんて、危なくて使えませんよ。自著の画像も勝手に事前学習に使われていましたし。ユーザーも無断で他人の絵を追加学習し放題です。今のところ迷惑でしかありません。

――真逆の結果になってしまったわけですね。

樋口:補足ですが、使い勝手が悪いためか漫画界隈は目立った被害は少ないです。逆にイラスト界隈は非常に深刻な状態に陥っています。上手い人は片っ端から目を付けられ、無断で絵柄LoRAを作成され、配布されてしまっています。この結果、仕事が奪われた上に「生成AIで描いているんだろ」と疑われるという理不尽な現象も起きています。生成AIが吐き出す絵柄の裏には、絵柄を奪われた人がいるんです。とても悲しいことだと思います。

――そういった部分に、生成AIの負の部分が表れていると思います。

樋口:生成AIに関しては、著作権の問題、ディープフェイク、Googleの画像検索の汚染、ChatGPTのハルシネーションなど、問題点がありすぎるんですよ。有効活用よりも先に問題点を改善してもらいたいです。特にディープフェイクや剥ぎコラは、誰もが被害を受ける可能性があります。漫画家が勝手に画像を使われるように、みなさんがネットに載せた自分や親しい人の写真が勝手に素材として使われているのが現状です。こうした問題がもっと周知されてほしいですね。

――先ほどからお話を聞いていると、樋口先生の苦悩が伝わってきます。

樋口:予備知識がないと、わかりづらい問題だと思います。僕が望むことは、公的な団体やメディアが、現在こういう問題が起きていることをもっと発信すべきですし、してほしいということです。問題が多くの人に周知されたら、生成AIを規制したほうがいいと考える人が増えると思います。当初は既存の法律で縛れるという感覚だったと思うのですが、その結果、こんな状態になっているのですから、新しい法の整備などは必要でしょう。現状の生成AIは、ユーザーの手に渡る前から世界中の著作物や声を無断で使用して作られています。それがいちばんの問題なんです。許諾を取ったデータと、パブリックドメインだけで作ってくれればあとは使い方次第ですから、その方向に進むことを願っています。

 

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