早くも生成AIの反動? 漫画家・ひな姫が語る、アナログ回帰の理由「心の底から感動できるのは手描きの絵」
デジタル、AIの次はアナログ回帰か
近年、漫画やイラストの世界ではAIに関する議論が盛んになっている。特にAIに関しては、XなどのSNS上で話題にならない日はないだろう。その一方で関心が高まっているのが、昔ながらの手描き、すなわちアナログの技法によって描かれたイラストだ。各地で漫画家の原画展が盛んに開催されたり、動画投稿サイトでは手描きのメイキング動画なども多く投稿されている。デジタルの進歩が急速に進み、さらにAIが登場した反動で、原点に回帰する動きといえるのかもしれない。
それまでCGで絵を多く描いてきた漫画家のひな姫も、アナログの魅力に開眼した一人である。11月7日に発売された『くっ殺せの姫騎士となり、百合娼館で働くことになりました』の4巻の表紙の線画もアナログで制作したという。ひな姫はアナログ画材を多く買いそろえ、X上にはアナログのイラストを多数UP、さらにサイン本などでは見事な水彩画を披露し話題になっている。CG、そしてAIが話題になる中で見出される、アナログの魅力とは何か。じっくりと話を伺った。
アナログとデジタルそれぞれのメリット
――ひな姫先生が、万年筆や水彩画材など、アナログな画材に注目されるようになった理由はなんでしょう。
ひな姫:アナログイラスト、特に水彩画を始めたきっかけは、5~6年ほど前、「マンガ図書館Z」が主催した漫画家が色紙を描くコミッションイベントですね。当時、僕は漫画の作画は完全にデジタルに移行していたのですが、特別な1枚を描き下ろすということで、アナログカラーの画材を探していました。その中で出会ったのが、水彩絵具です。
――ひな姫先生は1999年にデビューされていますが、デビュー当時の画材はアナログだったのでしょうか。
ひな姫:「月刊少年マガジン」で原作付きでデビューしましたが、この頃はアナログでした。その後、2000年代にPhotoshopやComicStudioなどを導入しています。初期の頃は、アナログでペン入れをして、Photoshopでトーンを貼り、ComicStudio4.0で仕上げるという流れでしたね。ComicStudioは4.0になってから性能がよくなり、重宝した記憶があります。
――アナログからデジタルに移行されたとき、メリットとして感じたことはありますか。
ひな姫:デジタルに移行してよかった点は、リテイク(修正)が何回でもできること。間違ってもゼロから描き直す必要がなく、線を引き直したり、色を塗り直したりができるわけです。反転が自在にできるのも良かったですね。アナログの頃は苦手な右向きの顔を描くときは、いったん左向きの絵を描き、透かして裏からなぞっていました。デジタルなら左向きを描いて、ボタン一つで右向きにできます。
――今では当たり前に誰もが使いこなしている機能ですが、それまでアナログで描かれていた方にとっては、何から何まで衝撃だったことのがわかります。
ひな姫:あと、アシスタントをしていた立場からすると、トーン貼りが異常に早くできるのはデジタルの圧倒的な強みだと思いました。トーン切れを起こす問題がないのもいいですよね。締切り直前ほど、大事なトーンがなくなって途方に暮れることがありましたから。
アナログに回帰したのは講師との出会い
――デジタルのメリットを享受したからこそ、再びアナログの魅力に目覚めたわけですね。ひな姫先生はなぜ、水彩画を描かれるようになったのでしょうか。
ひな姫:もともと水彩絵具について関心はあったのですが、ちょうど「世界堂」で水彩絵具の実演販売があったんです。実演をされている講師の方も、販売員の方も、とにかく画材に詳しくていろいろ教えてくれたんですよ。子どもの頃に不透明水彩を使ったことはありましたが、高級な水彩絵具なんて、もちろん見るのも使うのも初めてでした。「これまでの絵具と全然違う!」と感動したのを覚えています。
――「世界堂」の講師のレクチャーで、参考になったことはありますか。
ひな姫:学校の美術では、授業が終わるとパレットを洗わされていましたよね。講師の方は、それではもったいない、と言ってきたのです。絵具をずっと出したままにおけば端で偶然いい色ができていたりするから、洗わないほうがいいとのこと。パレットを育てるという感じでしょうか。これには目から鱗でしたね。
――良い講師と出会えてよかったですね。
ひな姫:筆を選んでもらい、教えてもらった通りに絵具を買い求めました。講師の方がまた来店すると聞いた時には、わざわざ出かけて手ほどきをしてもらったほどです。