【漫画】Xでいいね10万オーバー! “理系女ちゃん”が恋愛における男女の認知のズレを描いた『先輩は綺麗な人だった』
――多くの反響があると思いますが、ご自身としてはいかがですか。
理系女ちゃん:正直なところ、今回のバズに関しては複雑な気持ちです。「リケジョ」という言葉が流行って理系進学を選ぶ女性も増えましたが、いまだにブラックボックスになっている実情を発信するのを目的に投稿しているので。
でも単なる「理系あるある」だけでは理系進学の実情を発信しているとは言えないので、定期的に少し刺激の強い問題を取り上げています。特に本作は引用リポストが多く、考えてもらう機会になったのかなと。ただ、こういった人間トラブルは理系というジャンルそのものとは本質的に関係ないといった旨の指摘をいただいた時はとても残念な気持ちでした。
――『先輩は綺麗な人だった』は実話を基に制作を?
理系女ちゃん:基本的に、私の作品は大学の研究室等で実際にあったハラスメントなどを題材にフィクションとして描いています。ただ今回は毛色が違う作品ですね。もちろん文系大学でも起こりうる状況だと思うのですが、理系だと特に発生しやすい土壌があるような気がしています。
なぜならサークルやバイトなどで他人と関わる機会がないと、誰かと深いインタラクションを持つのが研究室に入ってからになってしまうんですよ。文系のゼミはそこまでだと思いますが、理系の研究室だと1年間ほど毎日一緒に実験をしたり発表したりする。対人関係が少なさゆえに事故が起きやすい気がしますね。特に学生間のトラブルの場合、会社と違ってハラスメントに対する処罰が明確でなかったり、指摘する立場の人間がいないことで事態がエスカレートしやすいと感じます。
――途中から視点が切り替わって、互いの認知に相違があることも印象的でした。
理系女ちゃん:知り合い同士でよく聞く「互いの認識が全然違う問題」を、変えることでネタばらしする小説の手法を表現したかったんです。言葉だけでは真実はわかりませんし、どちらが正しいとかではないのですが、互いの認識の齟齬を表現する手段として見た目を変えました。
――制作はどのようにされているのでしょう?
理系女ちゃん:まずはプロットを考えて、どのコマに何を描くかなどのディテールも細かく考えてから、実際に描いていきますね。
――多くの人に読まれていると思うので、お知り合いのなかでも読者がいるのでは?
理系女ちゃん:話題になりますよ。先日、知り合いにブロックされていてショックでした(笑)。たまたま仕事現場で会った他の人にも読んでいて苦しくなるといった旨のことを言われましたし……。
がっつりと問題提起もしているので、大学院のポジティブなことよりもネガティブな発信が目立ってしまうのは少し残念です。一方で知り合いから「漫画好きです」とDMが来たり、大学院生や女性教員から応援のメッセージが届いたこともあります。そういう反応は正直に嬉しいです。
――漫画は属性的に文系ですが、それと理系的なパーソナリティとの共存が理系女ちゃんさんのユニークな点だと思います。これについて、どう分析されますか。
理系女ちゃん:理系にも、アウトリーチする能力は必要でしょう。研究にはプロモーションが伴います。例えば国立大学だったら、国民への報告は義務と言ってもいいと思います。でも多くの研究者が自身の研究とその重要性を世間に上手に伝えられてないのが現状かもしれません。もちろん理系専門分野の難しさも原因かもしれませんが、私個人としては、それは他人の共感を得られていないことも大きな原因だと考えています。
もちろん誇大広告的な発信は許されませんが、研究をアウトリーチする上で理系こそ発信力を磨くべきなのかなと。理系女ちゃんのアカウントではあくまでもアウトリーチの手段として、視覚情報があるメディアである漫画を選んでいます。
――なるほど。
漫画も共感してもらえなかったら、いいねを集めることはできません。例えば三田紀房先生の『Dr.Eggs』や山口つばさ先生の『ブルーピリオド』は医学部や藝大を題材とした特定の界隈を描いていますが、きちんと共感できるポイントがあります。
確かに漫画は自己表現なので、自分の外にあるものを客観的に解釈する研究とは違いますね。でも反対にそれしかやってないから「理系の人はコミュニケーション能力が足りない」と言われてしまうのかもしれません。理系の人こそ漫画を描いた方がいいと思いますね(笑)。