ゴジラ上陸、宇宙人との接触、恐竜復活……現実で起こったらどうなる? ハードSFと最新科学から検証
■日本沈没、ゴジラ上陸、ウルトラマンと怪獣の襲来
我が国は古くから特撮作品が盛んだった。先ごろの米アカデミー賞で『ゴジラ-1.0』が邦画・アジア映画史上初の視覚効果賞を受賞する快挙を達成したが、初代の『ゴジラ』はまだ戦後間もない1954年の作品である。
そんな『ゴジラ』を「もしもゴジラが上陸したら?」という思考実験で描いたのが『シン・ゴジラ』である。モンスター映画としてはあるまじきことに、同作の序盤は閣僚たちが対応のための会議をしている場面が延々と続く。バカバカしくなってしまうほど地味だが、実際にゴジラが上陸するような事態が発生したら、まず行われるのは対応のための会議だろう。劇中のモブ役人が言っていたが「効率は悪いがそれが文書主義だ。民主主義の根幹だよ」なのだ。「現実(ニッポン)対虚構(ゴジラ)」という公開当時のキャッチコピーは実に端的に作品のエッセンスを表現している。
結局、同作はモスラも光の巨人もオキシジェン・デストロイヤーも登場することなく、官民一体となって事態を解決する。前述の『コンタクト』は有識者間で議論が交わされたが、『コンタクト』の「もしも宇宙人が」を「もしもゴジラが」に変えたのが『シン・ゴジラ』とも言えるだろう。この人類の力だけでゴジラに対峙する展開は現時点の最新作『ゴジラ-1.0』にも受け継がれている。なお、余談だが元防衛省職員の筆者の父に『シン・ゴジラ』のようにゴジラの駆除を理由に自衛隊が防衛出動することは可能なのか意見を仰いだが、父の見解は「それは難しいだろう」とのことだった。
『シン・ゴジラ』には我が国の古典SF作品にも類似性を感じさせるものがある。
国産ハードSFの大傑作『日本沈没』である。星新一氏・筒井康隆氏と並び「SF御三家」と呼ばれていた大作家・小松左京氏の代表作『日本沈没』は気が遠くなるほどのディティールを積み重ねたハードSFの大傑作だ。船に積み込むバラスト(乗り物のバランスを取るための重し)の描写だけで1ページ近く、潜水艇の歴史と原理の説明だけ2ページ、発端となる名も無い小島の沈没には10ページ以上の紙幅を割いており、ほぼ狂気のレベルの細かさである。日本だけが都合よく短期間に沈没することは現実にありえない出来事であり、そのことは作者の小松氏自身も認めているのだが、図を交えた40ページをこえる田所博士の日本沈没のメカニズムの解説はあまりにも真に迫っており、ウソなのにまるで実在する理論のようである。
『日本沈没』は何度か映像化されているが、原作のエッセンスを煮詰めて、ドライでシリアスな情感を表出した一度目の映画(1973)は出色の出来である。同作で多用される男性的ともいうべき緊密な構図と、歯切れの良い編集は『シン・ゴジラ』とよく似ている。おそらく『シン・ゴジラ』の制作陣はかなり同作を意識していたのではないだろうか。『日本沈没』は「日本が沈没したらどう対応するか?」の有識者による議論にかなりのボリュームが費やされており、様々な側面で『シン・ゴジラ』によく似ている。『日本沈没』は「日本が沈没するがゴジラの出てこない『シン・ゴジラ』」であり『シン・ゴジラ』は「日本が沈没しないがゴジラが出てくる『日本沈没』」だと筆者は思っている。
さて、『ゴジラ』は有名作品であるため、もちろん『空想科学読本』シリーズでもネタにされている。様々な側面から取り上られているが、柳田の推定によると「ゴジラは重すぎて生まれた瞬間に自重に耐えられず即死する」とのことだ。同様に日本特撮界の有名作品であるウルトラマンは身長40m、体重3万5000トンの設定だがこれも柳田氏によると「重すぎる」らしい。
だが、これは初代ウルトラマンの話である。『シン・ゴジラ』と同じプロダクションで製作された『シン・ウルトラマン』のウルトラマンは「身長60m、着地点の陥没の具合から体重2900t」とはっきり劇中で描写されている。「この体重は身長185cm・体重85kgの人間が、身長60mに相似拡大した場合と、ピッタリ同じ」とYAHOOニュースのコラムで誰あろう柳田氏その人がお墨付きを与えている。
同作には『空想科学読本』を意識したと思われる描写が幾度となく登場する。ネロンガの電撃については「推定50万キロワットの電気」、ウルトラマンのスペシウム光線については「イオン濃度が高い。大気がプラズマ化しています。一体何ギガジュールの熱量だったんだ?」
ウルトラマンは音速を超える速度で飛行する設定だが、『シン・ウルトラマン』のウルトラマンは飛行するとベイパーコーン(物体が空気中で音速を超えると発生するコーン型の雲)の発生が描写されている。
また、同作のウルトラマンは公式に身長60mと設定されているが、ゼットンはそのウルトラマンとも比較にならないほど超巨大だ。オリジナルのウルトラマンに登場するゼットンは1兆度の火の玉を発射する設定だが、柳田氏の試算だと、そのエネルギーは1秒間に380兆×1兆J(ジュール)、太陽の470兆倍に相当するとのことで、ゼットンがそれだけのエネルギーの炎を発射するには、地球の直径の約21倍の体格が必要になると結論付けている。『シン・ウルトラマン』のゼットンが巨大化しているのは制作陣の『空想科学読本』へのメッセージだったに違いあるまい。
同作には誰あろう柳田氏も反応しており、YAHOOニュースのコラムで「いちいち数字にするのが、まるで自分を見ているようだ。」「最初の放送から56年経って、ウルトラマンはここまで来たのだ。しみじみ嬉しい。」と同作の科学描写にコメントしている。