『2001年宇宙の旅』『オデッセイ』科学の正確性を追求する「ハードSF」の世界 名作宇宙映画のリアルさは?
『ドラえもん』で知られる漫画家、藤子・F・不二雄氏の生誕90周年を記念し、昨年(2023)末から記念原画展が開催されている。
とかく『ドラえもん』が有名な同氏だが、メモリアルイヤーということもあり、あまり話題の上ることのないSF短編の実写化作品もNHKで順次放送されている。その企画と連動し、原作のSF短編漫画が無料公開されている。公開期間は2024/6/30(日)までとのことだ。
藤子・F・不二雄氏のSF作品はシュールで独特の世界観である。初期の『ドラえもん』もそのような風合いが多少あり、原作のドラえもんは中々の毒舌でのび太のことをかなりストレートな表現で貶している。可愛らしい風貌のドラえもんが毒舌を披露する姿はなかなかにシュールである。
『ドラえもん』はわが国でも最も有名なSF作品の一つだろう。ネコ型ロボットがポケットから取り出す数々の道具に心躍らせた人たちは決して少なくないはずだが、その道具に「夢」ではなく「現実」を見出して真面目に検証し、大ヒットしたシリーズがある。
柳田理科雄氏の『空想科学読本』シリーズである。1996年に第一作が出版された『空想科学読本』は、人気シリーズとなり、現時点で17作品が出版されている。同シリーズは数々のフィクション作品を取り上げてきたが、『ドラえもん』は何度となく取り上げられてきた作品である。柳田氏の推測では、「タケコプター」を使うと「頭蓋骨が砕けて、皮膚はズタズタになり、人体の各部が吹き飛ばされる」とのことだ。
柳田氏は他にもいくつかのドラえもんの道具を検証しているが、いずれも現実的には実用に即さないか、実現不可能が結論のようだ。
SFを「少し不思議のSとF」と表現した藤子・F・不二雄氏にとってそもそも科学的な正確さは問題ではなかったのだろうが、SFにも科学的な正確性を追求した「ハードSF」と呼ばれるサブジャンルがある。今回は藤子・F・不二雄氏の世界とは対極にあるそういったハードSFがどれほど科学的に正しいのか考察していく。
※必要に応じて参考文献を挙げるが、本稿は『空想科学読本』シリーズとリック・エドワーズ/マイケル・ブルックス(著) 『すごく科学的: SF映画で最新科学がわかる本』を参考にしていることをお断りしておく。
宇宙を科学的に正しく描く 科学的に正しい宇宙の描写
宇宙は人類にとってのほぼ完全なる未知の世界である。人類が有人で到達できた天体は、現在のところ月しかない。金星と並んで最も近い可能性のある惑星である火星ですら、有人飛行でたどり着くには多くの技術的な障壁が存在する。
リドリー・スコット監督の『オデッセイ』はマット・デイモン演じる主人公の宇宙飛行士マーク・ワトニーが火星に取り残されてサバイバルする物語だが、時代設定は近未来の2035年になっている。
同作は原作者のアンディ・ウィアー氏が科学的な描写にこだわったハードSFの典型例だが、こだわったがゆえに完全に現代に時代設定をしたら嘘くさいと判断したのだろう。ワトニーは火星の基地でジャガイモを栽培して生き延びたが、現実世界でもISS(国際宇宙ステーション)ではいくつかの種類の野菜の栽培が行われており、宇宙飛行士の食料になっている。ジャガイモはまだ実験段階で、火星と土質が比較的近いペルーの砂漠の土を使って火星での栽培に適した品種を見定めているところである。