『ゴールデンカムイ』だけじゃないーー格ゲー原作や巨匠作品まで、アイヌ文化の奥深さを知るための漫画3選
■手塚治虫『シュマリ』(手塚プロダクション)
マンガの神様・手塚治虫のメジャーとは言い難い一作。『ゴールデンカムイ』以前では数少ないアイヌ文化を前面に押し出した例である。
舞台は『ゴールデンカムイ』と同じく明治時代(ただしもっと初期)で、おそらく野田サトル氏は本作を意識したのではと思われる部分が度々ある。
イナゴの大群やオオカミなど北の大自然が容赦なく襲いかかる描写や、隠匿された五稜郭の軍用金を巡るエピソードなどかなりイメージが重なる。ポン・ジョン(小さなウンコ)という名前のアイヌの子供が登場するが、これも『ゴールデンカムイ』とイメージが重なる。大きく雰囲気が違うのは明治初期という時代から、北海道開拓に関するエピソードが多く、『ゴールデンカムイ』に比べて内地から渡ってきた和人の登場割合が高いことだろうか。
物語は主人公「シュマリ」が逃げた妻・妙と相手の男を探し北の大地を彷徨するところから始まるが、その目的は序盤であっさり達成される。その後、物語は様々な人物か絡み合う姿が緩く繋がった一話完結の形式で描かれる。まるで大河ドラマのような重厚な内容で、マンガの神様がどれほど時代を先取りしていたのかこの偉人の凄さに改めて感服する。半世紀近く前の作品だが、電子書籍化されているので手に取りやすくなっている。『ゴールデンカムイ』が好きで仕方ない向きの方には強く推奨したい。
最後にマンガではないが中川裕氏の『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』を挙げておこう。中川氏は原作と実写映画でアイヌ語監修を務めた人物であり、『ゴールデンカムイ』のアイヌ描写について「もっと知りたい」と思った方には最良の一冊である。
アイヌの精神世界を代表する「カムイ」の概念の解説から始まり、アイヌ人の先祖はどこから来たのか?、アイヌの伝承、アイヌ語の特徴、アイヌの食文化など原作に描写されたものは大体網羅されている。
『ゴールデンカムイ』作者の野田サトル氏による書下ろしマンガもついており、原作読後、映画鑑賞後の作品をお替わりしたい気持ちの方にもピッタリだ。連載当時は敢えて日本語訳を載せなかった2巻14話のフチが主人公・杉本にかけた言葉の意味も解説されている。平易でも読みやすく、パンフレットのようなガイド本として気楽に楽しめるので気になる向きの方は是非手に取っていただきたい。
【写真】『ゴールデンカムイ』「不死身の杉元」のリアルすぎるフィギュアをみる