水曜日のカンパネラ・詩羽「新たなスタートは“見た目を変える”ことでしか成し得なかった」

水曜日のカンパネラ・詩羽インタビュー
詩羽『POEM』(宝島社)

 ファッションアイコンとしても知られる水曜日のカンパネラのボーカル・詩羽。その口ピアスと刈り上げが意味するのは、決意であり武装だったーー。3月15日に刊行される初のフォトエッセイ『POEM』(宝島社)のエッセイ部分には自ら「惨敗だった」と振り返る過去が、18回に及ぶ「クソ」という言葉などで記されている。

 本作のテーマは「違和感」。フォトパートは写真家の横山マサト、仲川晋平、野口花梨、スタイリストの石橋渼沙、hao、久保田姫月をそれぞれ起用。浮世離れした3つの世界観で見せる表情には、きっと読者も目を奪われるだろう。またイシわタ美サきによるヘアスタイリング、詩羽自身によるメイクにも注目だ。

 昨年、日本だけでなく北京、上海、広州、台北を巡るアジアツアーを成功させ、来たる3月16日には水曜日カンパネラ主演&歌唱として初の日本武道館での公演も控える詩羽。彼女に初書籍『POEM』に込めた想いを語ってもらった。

何もかもにおいて「自分は負けてる」と思っていました

――本作のコンセプトである「違和感」について教えてください。

詩羽:私は「普通じゃない」と言われることが多いですけど、その違和感を大事にしてもいいんじゃないかなと。「これもアリだよね」という意思表示です。普段の活動も同じですよ。このファッションやスタイルで私が前に立つことで、社会にある「普通」に反発したいですし、昨今ではバカにされることもある「多様性」という言葉がなくても個性を大事にできる世界になってほしいですね。

――エッセイを書こうと思った経緯についてもお願いします。

詩羽:3月16日の「日本武道館単独公演〜METEOR SHOWER〜」が、水曜日のカンパネラに参加して2年半になるタイミングなんです。それが恐らく、改めて多くの方に知ってもらう機会にもなると思っていて。普段から「愛を大事にして生きていこうね」と伝えていますが、それは愛されてきた人間が言うのと、愛が足りなかったからこそ言うのでは重みが違います。だから、この節目のタイミングで発信するべきだなと。

 前々からファンの皆さんに説明しなきゃと思っていましたし、マイナスが渦巻いている人たちにも私の言葉を届けたいんです。でも自分はポップにしか見えてないと思いますし、そんな奴の言葉なんて受け入れられないじゃないですか。それだと自分の変えたいことを変えられない。だから言葉にしておきたかったんです。

――鮮明な回想が印象的でしたが、日記を付けていたりするのでしょうか?

詩羽:何も残っていないんですよ。ただ今回エッセイを書いたことで「記憶には残っているし、全部ちゃんと背負って進んでいるんだな」と自覚できました。ただ何も経験せずに大人になっていたらと想像すると怖いですよ。

 例えば業界で長く活動する友達がいるんですけど、もし私が恵まれた人生を送っていたら、その子の苦労を少しも理解できなかったかもしれない。誰かのマイナスな部分を受け止められるのは自分も経験したからですし、その意味では糧になっているのかな。

――「傷を柔らかく抱きしめられるようになってきた」という表現もありました。そのマインドになるための秘訣は何でしょう。

詩羽:それが一番難しいことかも。ステージでファンの方々の愛を思い切り受け止められる瞬間が、私にとっては「いい方向に進んでいるな」と実感できる機会です。とはいえ「抱きしめられるように“なってきているなあ”」という感じ。簡単に変わることでもないので。

 だから大事なのは今後に出会う人、その上で作り上げる環境。「待っているだけでは何も変わらない」と言ったら厳しいですが、私自身が経験して思うことです。自分の人生は自分のものであるからこそ、どうすれば幸せになれるかを考えないと。そうでないと過去と上手に向き合うなんて無理な気がしますよ。

――「惨敗続きだったけど、それでも負けたくなかった」という場面もありましたが、負けを認められるのも強さでは?

詩羽:勝たないとシンプルに先がなかっただけなんです。もともと性格的に負けず嫌いですし、自分自身や環境に負けたくなくて。私にとっての「勝ち」は「楽しそう」とか「幸せそう」ですから。そうでない限り、何もかもにおいて「自分は負けてる」と思っていました。

――今は勝てていると思いますか。

詩羽:全然思ってないです(笑)。時によって必要な「勝つフリ」をするのが得意になったかもしれませんが、人間の根本はそこまで変わりません。

「クソ」って、私にとっては愛のある言葉でもある

――水曜日のカンパネラ「赤ずきん」の歌詞〈モノマネでもフェイクでもいい〉〈嘘の嘘まで信じさせたら本物じゃん〉を思い出しました。ご自身のイメージする「フリをする」ことについて教えてください。

詩羽:フリをしたら、いつの間にか心が元気だったことがありました。だから幸せなフリをしていると、本当に幸せになれるのかも。フリをするのはいい手段な気がします。

――自分の本音を飲み込んで笑っていた過去も記されています。これもネガティブな意味で「フリをする」ことでは?

詩羽:当時は笑って誤魔化すしかできなかったんです。逆に最近は減りましたね。今は正直に生きた方が幸せだと考えているので、面白くないことや嫌なことには笑わないと意識しています。それは結局、自分を傷つけるだけですから。「誤魔化す」と「装う」は違いますよ。

――「装う」といえば、エッセイの第3章「2時15分」における、口のピアスを開けて刈り上げにした過去はハイライトだと思います。これについても改めて教えてください。

詩羽:誰にも何も言わずにやりましたね。気付いた親に何を言われるかもわからないなかでしたが、「闘うぞ」という決意の瞬間だったのかな。何もかもに負けていたけど、20歳までは生きてやろうという覚悟。

 弱いものには厳しい社会ですから、それを強く取り繕うところから始めないと何も変わりません。私にとっては第一歩でした。

――「フリをする」だけでなく、外面も変えたのはなぜでしょう。

詩羽:強くなるためにという一心です。あの瞬間は「死ぬか生きるか」という2択しかありませんでした。でもそこで終わるくらいなら、成人の20歳なら切りがいいかなと。そして新たなスタートは「自分の見た目を変える」ことでしか成し得なかったんです。

――ファッションは時に表層的だと言われますが、心も変える行為だと改めて感じました。

詩羽:いきなり内面を変えるのは無理な話だと思うんですよ。逆に見た目って覚悟と思い切りがあれば変えられると思うので、見た目を変えることで内面もいい方向に変わっていくかもしれない。もちろん絶対にそうだとも言えませんが、ひとつの手段な気がします。

――「クソ」という言葉が18回出てきます。様々に使われる象徴的なワードだと思いましたが、これについては?

詩羽:「クソみたいな人生だったな」と自分で思うんですよ。もしかしたら一生「クソだな」と考えるかもしれません。社会に対してもそう。でも「クソ」って、私にとっては愛のある言葉でもあるんです。「めっちゃいいじゃん!」という意味でも、一般的な意味でも使えるじゃないですか。色々な意味を含む広い言葉だし、嫌いではないですね。

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