猫の本、ニーズにあわせた細分化でヒット作続々 猫専門誌編集長が分析するふたつのトレンド

猫本ブームの背景とは?
RIKU『ほぼねこ』(辰巳出版)

 出版不況を謳われる昨今でも、猫に関連する出版物は堅調に売れ続け、新刊や類書も発売され続けている。辰巳出版からは、虎やライオン、ユキヒョウなどネコ科の動物たちが飼い猫のような表情を見せた瞬間をまとめた写真集『ほぼねこ』も昨年12月に発売されており、人気は猫というよりネコ科全般へと広がっている様子だ。

 猫関連の本自体は以前から発売されていたが、近年の猫本はどのようなものが発売されているのだろうか。"大人の猫マガジン"をキーワードに写真や取材記事を多数掲載する猫専門誌『猫びより』の宮田玲子編集長は、現在の猫本にはふたつのトレンドがあると話す。

 ひとつは、現在すでに猫と暮らしている人向け書籍の細分化である。一昔前は猫の飼い方を説明した飼育本程度しか存在していなかったジャンルだが、近年はその細分化と内容の深掘りが進んでいるという。

「最近は『より深く猫を知って、愛猫のために何ができるか』という点にフォーカスした本が増えています。飼育書一冊があればいいということではなく、猫のマッサージの本や認知症についての本、猫と一緒に災害から身を守るための防災本など、細かいジャンルのノウハウをまとめた本が数多く刊行されています。自分が担当した本だと、『はじめての猫のターミナルケア・看取り』はよく売れました」

「あと、自分の担当したものだと、猫の健康について動物病院の先生に聞きづらいことをまとめた本も出しました。猫って散歩に出る機会が多い犬よりも外出のタイミングが少ないので、病院に行くのも一苦労……ということが多いんです。外に出すのも可哀想になって、年に一回の健康診断とワクチン接種程度しか病院の先生と話さない飼い主もたくさんいます。そういった人に向けて、もっと気軽に動物病院へ行ってほしいという思いを込めて作った本ですね」

「このジャンルの本は、色々なニーズに合わせてとにかく細分化が進んでいます。その中でも、近年の猫の長寿命化に合わせて、シニアの猫と暮らしている人に焦点を当てた本が増えた印象があります」

 一方、もうひとつのトレンドと言えるのが「猫と暮らしていない人でも楽しめる本」が増えたことだという。そこには、SNSの普及という要因も絡んでいる。

「可愛い猫の写真と四字熟語が組み合わさっていることで楽しく学べる『にゃんこ四字熟語辞典』が大ヒットしましたが、ふたつめのトレンドはこういった本です。猫の写真を使った間違い探しや、算数ドリルと猫を組み合わせた『脳活にゃんこ算数ドリル』などですね。猫のおかげで楽しく学べたり、飽きずに読めたり、脳を活性化できたり……という出版物の刊行は、近年のトレンドと言えると思います。実用書や教科書のようなものが猫が入り口になることで、とっつきやすくなるんですね」

「このトレンドに乗った本には、『飼ってはいないけど猫が好き』という人に向けたものも多いです。背景には、SNSが普及することによって色々な飼い猫を見る機会が増えて、猫に対して興味や関心を持つ人が増えたことがあると思います。そもそも、散歩を日常的にする犬と違い、SNSが普及する前はよその飼い猫を見る機会はありませんでしたから」

 このふたつのトレンドに乗った出版物は近年数多く刊行されているが、この範疇にとどまらない猫本も発売されている。"看板猫"と出会える店をまとめたガイドブックを旅行情報誌専門の出版社が刊行したり、猫を題材とした大人向けの絵本も人気を集めている。猫と美術の関係について解説した本、猫と歴史をテーマにした本なども定期的に発売されており、ジャンル内ジャンルを形成していると言ってもいいほどの人気があるという。

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