予想のつかない特殊設定ミステリーで注目 潮谷験の新作『ミノタウロス現象』はファンタジーが現実に?

潮谷験『ミノタウロス現象』を読む

 以後、京都府警警視長・輪久井宏一による捜査とは別に、翼は独自にこの一件を調べ始める。なぜ岩城が怪物の着ぐるみの中に入って現れたのか。状況から見て、怪物が出現することを知っていたのか。二番目の謎が強烈で、読者をグイグイと引っ張っていく。そして翼と羊川は、一級建築家の資格を持つ郷土史学者の永倉秀華に行き当たり、過去の事件と迷宮の存在を知る。ここからストーリーは、予想外の方向にドライブ。かつて怪物を倒した、アメリカの元警官モーリス・ジガーも加わり、とんでもない騒動に発展していくのだ。本書の中に、「ファンタジーが、現実にめり込んでいる」という一文があるが、本当にその通りなのである

 しかも作者は怪物の正体や、出現する理由について、これまたとんでもない答えを用意している。登場人物の口から語られるのは仮説にすぎないが、妙に説得力がある。なぜなら怪物が次々と出現するという〝現実〟が、既にあるからだ。普通なら単なる妄想にすぎない仮設を、「ファンタジーが、現実にめり込んでいる」世界にすることで、成立させてしまうのである。

 さらにその後、岩城が射殺された事件の真相が暴かれる。ああ、あれやこれが伏線だったのかと感心し、ロジカルな推理により明らかになる犯人の正体に驚く。怪物すら利用する人間こそが、真の怪物なのか。しかし怪物に立ち向かうのも、また人間である。作者が創造した特殊設定の世界が、そんな人類の姿を浮かび上がらせるのだ。

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