『十二国記』の主人公は誰になる? 山田章博が描くことでより深みを増した“強烈なキャラ”から考察
小野不由美×山田章博、最強タッグの再共演に期待
登場する誰もがその人生において主人公なのだと言った思いがあるように、登場人物たちに精緻なバックグラウンドを持たせようとした小野不由美の筆が、「十二国記」を誰が主人公だと言うことがはばかられるシリーズにした。そこに、山田章博による登場人物たちの描写が乗って、誰ひとりとして見過ごせない存在感を感じさせるものとなった。『「十二国記」の絵師 山田章博の世界』を開くと、そうした“キャラ立ち”への賛意がうかがえる言葉に触れることができる。
例えば楽俊。小野不由美がインタビューに答えて、最初は1回だけの登場予定だったものが、「イラスト見たさに何度も登場することになりました」と打ち明けている。陽子については、剣を持つ姿に「天部像のよう」「これほど気高い少女の姿はほかにない」といった言葉が、作者や編集者から贈られている。小野不由美は、「ふわっとした曖昧だったキャラクターが、山田先生のイラストでカチッと決まる、ということはよくあります」とも話していて、誰もが主人公に思えるくらい登場人物に強さが伴った背景に、山田章博のイラストがあったことが感じられる。
こうした強いキャラクター性ゆえに、講談社ホワイトハートX文庫から新潮文庫へと刊行元が移った時、イラストレーターが変わる可能性があった。ライトノベルのレーベルではない一般向けの文庫が、漫画のようなイラストを付けることに抵抗感があったのだろう。読者が手に取ってくれないかもしれないという不安もあったのかもしれない。
もっとも、時代が移り変わって一般文庫でライトノベルと見間違えるようなキャラ絵の表紙が使われることも多くなっている。何より「十二国記」というシリーズが、山田章博の描くイラストと共に登場人物の物語性を深め、世界観を広げてきたことが、改めての起用につながった。タッチこそカチッとした漫画的なラインから、幽玄さを帯びたものへと変わっているが、陽子は変わらず毅然としていて、泰麒は凜として美しく、楽俊は愛らしくてフワフワだ。
こうなってくると、もっと陽子が猛々しく剣を振るう姿が見たいとか、国を取り戻した泰麒と驍宗の活躍を見たいといった声が起こり、続編を小野不由美に求め、イラストを山田章博に求める声が起こりそうだが、固まった主人公がいないのが「十二国記」シリーズの良さなのだとしたら、過去に描かれなかった人物による冒険を、初めて見る人物のイラストと共に楽しみたいもの。その時を待ち焦がれよう。