鳥取は毎月約20万円支給、熊本は漫画学科が高校に……「地域創生」は漫画家育成がトレンドに?
■水木しげるの故郷、鳥取県のクリエイター支援
2023年に公開された映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が大人気となり、水木しげるブームが起こっている。水木は鳥取県境港市の出身であり、境港駅前には「水木しげるロード」と記念館が整備され、一大観光名所となっている。また、鳥取県は水木のほかにも青山剛昌や谷口ジローなど著名な漫画家の故郷であることから、「まんが王国とっとり」と称して県の活性化に取り組んでいる。
そんな鳥取県では、既存の漫画の資源を使うだけでなく、次世代を担う漫画家を生み出そうという新しいプロジェクトが進んでいる。その名も「とっとりクリエイターズ・ビレッジ」で、2023年12月にその詳細が発表されたばかりである。この事業は、鳥取県と講談社が連携して取り組むもので、地方創生とクリエイター支援事業を組み合わせた企画として話題を呼んでいる。
具体的な内容を見てみると、主に漫画やアニメ、ゲーム、音楽などの創作を行う県外在住のクリエイターに、2024年4月1日から2年間、境港市に居住して活動してもらうというものだ。鳥取県に住み続ける意志を持っていることが条件であるが、なんと毎月約20万円(税別)が支給されるという。さらに専用のコワーキングスペースが利用でき、担当編集者までつくという恵まれた環境で、好きなだけ創作活動を行うことができるのだ。
■地方都市で創作ができる時代になった
近年、地方で漫画家になりたいという若者を支援するプロジェクトが盛んになっている。有名な例でいえば、コアミックスと連携した熊本県高森町の高森高校だろう。公立高校では初となる「マンガ学科」を設置し、漫画家を目指す若者に入学してもらい、コアミックスが持つ漫画制作のノウハウを伝授してプロの漫画家を目指してもらおうというもの。募集を行ったところ、定員40名に対して全国から100名以上の入学希望者が殺到し、大きな反響を集めた。
これまでも、漫画家志望者に安価で入居できるアパートを提供、共同生活をしてもらう「トキワ荘プロジェクト」のようなプロジェクトがあった。これらは東京近郊など都心が中心であった。近年、相次いで地方で漫画家育成のプロジェクトが誕生するようになった背景には、漫画家の働き方の変化も影響していると思われる。
20年前くらいまでは、漫画家はデビューと同時に上京し、アパートの一角にアシスタントを集めて漫画を描くケースが多かった。最近ではデジタル機器やネット環境の発達により、地方に住みながら漫画を描くことが可能になり、実際に地方で創作する漫画家は増えているとみられる。『ちゃおデラックス』や『ちゃおプラス』で連載をもつあまねあいは、佐賀県唐津市で子育てをしながら漫画を描いている。
なお、唐津市にはネットニュースの第一人者であるライターの中川淳一郎も移住している。中川は今なお「週刊新潮」を筆頭に数々のメディアで連載をもつ売れっ子ライターであり、AbemaTVにも出演しているが、唐津市を拠点にバリバリ仕事をこなしている。東京に住まなくても、創意工夫次第では地方でクリエイティブな仕事は可能だし、むしろ地方の方が落ち着いて創作できる環境が整っていると話す人もいる。
■地方からクリエイターを生み出す
漫画やアニメは日本の代表的なコンテンツ産業であり、『鬼滅の刃』や『【推しの子】』は世界的な人気になっているし、宮﨑駿の映画『君たちはどう生きるか』は、今年1月7日に発表された第81回ゴールデン・グローブ賞でアニメ映画賞を受賞した。しかし、日本ではクリエイターに対し、国レベルでの支援が充実しているとは言い難い。
対して、文化立国を推進する韓国では、クリエイターに手厚い支援が行われている。参議院議員の赤松健が韓国を視察した際、韓国の漫画映像振興院がWEBTOONの漫画家300人を格安で施設に住まわせ、創作に当たらせている事実を知って衝撃を受けていた。施設にいるのはトップレベルの漫画家であり、入居にあたっても競争率が高いのだという。こうした体制が、韓国の文化が世界を席巻する原動力になっているのは間違いないだろう。
日本では国レベルではまだまだといえるが、地方自治体がクリエイター支援のプロジェクトを次々と打ち出しているのは興味深いし、今後の地方創生のヒントにもなりそうである。地方に住んだ漫画家が生み出した作品が、その地域の名物になり、世界中から観光客を集める。そんな未来があったらなんと素晴らしいことだろう、と思う。
【写真】子育てをしながら連載漫画家として活躍! あまねあいの取材時のネームなどの画像
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