鈴木涼美が考える、ホストクラブの光と影 「悪者があらゆる側面で“悪者”であるわけではない」

鈴木涼美、ホストクラブを語る

ホストクラブは潰しやすい場所

ーー歌舞伎町内でのお金のまわりかたが、まるで社会の縮図のようでした。中年男性からお金を得た風俗嬢は、ホストクラブに大金をつぎ込む。そのホストである兄が祖母の入院費用を払っています。

鈴木:それで祖母が入院しているのは、立ちんぼエリアの真上にある病院なんですよね。キャバクラや風俗に行くホストもいるから、そこはあげたりもらったりする関係性なんですけれど。

 私が以前からすごく不思議に思っていたのは、ホストで親に送金している人が多いことでした。ホストというと、どこか不良っぽくて反抗的で、親を捨てているようなイメージがあるじゃないですか。でも意外とみんなマザコンだったりして、親に対して献身的なんですよね。かつての吉原や東南アジアでは、娘が半ば売られるような形で、家族のために働きに出ることがありましたが、それともまた違う温度がある。

 ホストは場合によって女の子に対しては「ちょっと稼いで来いよ」などと言う悪い人に見えても、その裏ではお母さんに月に100万円を送ったりしている。もちろん送金するからいいとは限らないんですけど、私にはできないようなことをずっとやっている。「悪者があらゆる側面で悪者であるわけではない」という、私の世界観を形作る一助となった光景でした。

ーー昨今のホストクラブの売掛などを規制強化する動きについてはどうご覧になっていますか。

鈴木:銀座のクラブやラウンジでは、会社の社長や役員のような人たちが、信用があるからツケにできるという建前じゃないですか。でも歌舞伎町のホストクラブの場合は、女の子の体が資本になっている。彼らのような信用はないからカード会社は貸してくれないけど、歌舞伎町の悪い人たちから見ると、彼女たちの資金はむしろ無尽蔵なんです。

 だから以前は、売れっ子の風俗嬢が月に使える最高額が、ホストの売り上げの最高額だったんですよ。でも最近はインターネットの存在やパパ活の流行などいろいろな影響があって、その数字が極端に引き伸ばされていました。一部のホストクラブが、とにかく高額な売掛を頼りに見せかけのホストの売上をものすごく高く見せることに成功して、それが目に余るレベルになったため、ある程度の規制を入れようという動きをせざるを得なくなったのではないでしょうか。

 一方で、ホストクラブはマスコミや公権力などに多い男性の権力者たちが潰しやすい場所でもあると思います。銀座は自分たちもお世話になっているから、たとえば一部のホステスが詐欺まがいのことをしたとしても、別に業界全体は問題視されません。だけど歌舞伎町のホストクラブの場合は、それが若い女の子たちの遊び場だから、見つかると脆くて潰されやすい。多くの権力を持った男性にはなくなっても痛くもかゆくもないわけです。

  それに、そういう規制を作る男性たちの「自分の女にそんなところに行って欲しくない」という気持ちがどこか混ざってる気がして。ホストに通う子たちの中で、強い発信力を持っている人や規制を作る側の人は今のところすごく少ないから、ちょっとアンフェアになっていると思います。女の遊び場ならいくら取り上げてもいいみたいなところはすごく気に入らないです。

 私自身は規制推進派でもないですが、「ホストクラブはいいところだからみんなで行こう」とも全然思いません。私は好きだけど、狂いたい女がある種、悪いことをするために行くところでもある。それを禁じる論理なんてないと思うけれども、では通うことに対して擁護する言葉を持ってるかというと、微妙なんですよね。私自身が「よくない」と思いながら通っていたから、人から「よくない」と言われても「わかってるよ」という感じなんですよ。私にできるのは、そこにあるものは単純な図式ではなくて、意外と複雑な形をしているということを、書くことなのかなと思います。


■書籍情報
『トラディション』
著者:鈴木涼美
価格:1,650円
発売日:12月8日
出版社:講談社

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