映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』原作にどこまで忠実?  水木しげるから受け継いだ“理不尽への抵抗”

『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』原作に忠実?

  故・水木しげる氏の生誕100年を記念して制作され、大ヒットを記録している劇場アニメ『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』。その内容は、原作で描かれていない部分に切り込んだオリジナルストーリーとなっており、鬼太郎すらほとんど出てこない。

  そこでまだ映画館に足を運んでいない人々のなかには、「どこまで原作に忠実なのか?」と気になっている人もいるかもしれない。しかし結論から言うと、むしろ同作は『ゲゲゲの鬼太郎』と水木氏の精神を忠実に受け継ぎ、次の世代へとバトンを渡すことに成功しているように思われる。

  まず、あらすじから確認しておくと、同作の舞台となるのは昭和31年の哭倉村(なぐらむら)。財政界の大物である龍賀一族に支配された村に、血液銀行に勤める男性・水木と不思議な力をもつ鬼太郎の父が足を踏み入れ、忌まわしき怪奇現象に巻き込まれていく──。

  公式サイトなどでは「鬼太郎の父たちの物語」とまとめられているが、ここで重要なのは“鬼太郎の父”が複数形で表現されていることだろう。原作の時点で、鬼太郎には生みの親と育ての親の2人が存在した。生みの親は言わずと知れた目玉おやじで、育ての親にあたるのが他でもない水木の方だ。

 『ゲゲゲの鬼太郎』が誕生した経緯はやや複雑で、原型となる紙芝居が存在しており、それを水木氏がオリジナルの世界観に昇華させることで、現在よく知られている鬼太郎たちの物語が形作られていく。そこで大きな契機となったのが、1960年頃に発表された貸本マンガ版『墓場鬼太郎』の1話目にあたる『幽霊一家』だった。

  この物語は血液銀行勤務の男性・水木が主人公となっており、ある日隣に不気味な夫婦が引っ越してきたところから始まる。彼らは実は人間に迫害され、絶滅寸前となっている“幽霊族”だった。しかし不治の病にとりつかれていた夫婦は、その後命を落とし、水木は墓場の土の中から生まれてきた赤子を育てることにする。

  こうしたプロットと、育ての親としての水木というキャラクターは、その後『週刊少年マガジン』などで連載された『ゲゲゲの鬼太郎』でも変わっていない。1968年発表の「鬼太郎の誕生」では、ほとんど同じ話の流れで鬼太郎の出生が描かれていた。

  ネタバレを避けるため、詳細は伏せるものの、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』はこの出生エピソードに直結しうるストーリーとなっている。水木の設定や、鬼太郎の両親に関する描写などと密接にリンクするように作られているため、原作と映画を見比べることで深い感動を味わえるはずだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる