秋田県民が熊に対して抱くイメージは“赤カブト”ーー漫画から考える、熊と人間の共存の道

秋田県出身の漫画家が描く熊

 熊の出没が社会問題になっている。記者は秋田県出身なのだが、秋田県では全国屈指の熊の被害が多発している状態だ。既に60人以上が熊に襲撃されており(11月3日現在)、目撃情報に関しては、もはやあちこちで熊が出すぎて対応しきれていないといわれる。なんと私の実家のすぐ近くにも熊が出たと父からLINEがあった。今年は異常な状態と言っていい。

 北海道といえばヒグマが有名だが、秋田県で見られるのはツキノワグマである。秋田県には山も森も林も多く、山間部の道路を走っていると「熊出没注意」の看板を見かける。町から離れた集落に住む子どもなら、「熊に気をつけなさい」と学校や親から言われた経験をもつ人も少なくないはずだし、実際に熊を目撃した経験をもつ人も珍しくないだろう。

 秋田県出身の漫画家は、熊をたびたび漫画の中に描いている。もっとも有名な作品は、東成瀬村出身の高橋よしひろが描いた『銀牙-流れ星 銀-』であろう。漫画の中には熊犬「銀」が戦う相手として、赤カブトという凶暴なクマが登場する。赤カブトに対抗するべく、銀を熊犬として鍛え上げたのが、竹田の爺様こと竹田五兵衛だ。竹田の爺様はマタギであり、赤カブトに左耳を削ぎ落された経験をもつ。おそらく、秋田県民が熊に対して抱くイメージは、この赤カブトであろう。

 横手市増田出身の矢口高雄も熊が登場する漫画を描いている。それは『野性伝説 羆風・飴色角と三本指』で、死者6名、負傷者3名を出した、日本史上最悪の獣害事件「北海道三毛別熊害事件」を題材にしたものだ。熊が人を襲撃するシーンは大迫力で、『釣りキチ三平』とはまた異なった、矢口ならではのダイナミックなコマ割りと自然の描写を見ることができる。

 高橋と矢口が熊を題材にした漫画を描いているのは、決して偶然では無いだろう。秋田県民にとって、それだけ熊というのは身近な動物なのである。そして、襲われたら危険であるという意識を共有し、恐れの対象となっていたのだ。とはいえ、秋田県の人々は決して熊を邪悪な存在のように扱ってきたわけではない。矢口が描いた『マタギ』『マタギ列伝』を読めばよくわかるが、熊と猟師は共存の道を模索し続けているのである。

 高橋と矢口はともに日本漫画界を代表する“超絶画力”の持ち主であるが、その見事なペンタッチで秋田県の自然の美しさだけでなく、厳しさをもリアルに描いている。熊の話題で盛り上がっている今だからこそ、両氏の漫画を手に取り、熊と人間はどのように共存すべきかという壮大なテーマを考える機会としたい。

 

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