『同志少女よ、敵を撃て』から『歌われなかった海賊へ』 逢坂冬馬、注目の第二作目を読む
ところが、徒歩旅行の果てにヴェルナーたちが発見したのは、人が簡単に殺され、死体が焼かれる、強制収容所だった。強制収容所の残虐行為を許せないヴェルナーたちは、ある計画を立てる。ここまで読んで思ったが、本書の重要なテーマの一つは〝選択〟ではなかろうか。
計画の内容や、その結果については触れることは控えよう。ただ、これによりエーデルヴァイス海賊団の反抗が、反逆になったことは指摘しておきたい。明確に一線を越えた選択から、少年少女の人生や思想が露わになる。さらにその計画が終わった後に、ヴェルナーたちは過酷な選択を強いられる。留意すべきは、そこで大人たちの選択も明らかになることだ。時代に迎合したことや、強制収容所の残虐行為から目を逸らしていたこと。今までに選択してきた結果としての、生き方が喝破されるのである。戦時下という極限状態の選択が、自由を求める少年少女と、時代に屈した大人たちの姿を、鮮やかに表現しているのだ。
さて、ここまででも優れた作品だが、作者は最後に物語の時間を現代に戻し、さらなる感銘を与えてくれる。1944年にエーデルヴァイス海賊団と縁のあった少年のフランツは、その後の長き歳月で無念を抱えて生きてきたのだ。悲しいことに、大人たちの選択が、いつまでも尾を引いているのである。しかし作者はラストで、一筋の希望を見せてくれた。歴史を知ること、事実を受け入れること、自由を求めること。どんなん時代でも、それが人間にとって大切なことだという、作者のメッセージが伝わってきて、胸が熱くなったのである。