ペット専門雑誌の役割はどう変化した? 創刊から20年以上愛される『猫びより』『Shi-Ba』編集長インタビュー

『猫びより』『Shi-ba』編集長インタビュー

正解のない価値観に寄り添い、ずっと手元に残しておきたい雑誌に

――少しセンシティブな話になるのですが、ペットショップの問題や地域猫の是非など、ペットを取り巻く環境が日々変化しています。ペット雑誌に対しての風当たりに変わりはありますか?

宮田:それはありますね。やはりいただく感想であったり、SNSの反応を見ていても厳しい目が向けられていることは感じます。ただ、『猫びより』のスタンスとして創刊当初から変わらずペットショップの広告は入れないようにしてきましたし、ただ可愛いだけの記事にはしないという点がありますので、社会の事情を見て方向性を変えたということはないです。

打木:どうしても犬種が限られているので「種の保存」という名目がある分、猫とは少し違うかもしれないんですが、『Shi-Ba』も基本的なスタンスは同じです。単純に楽しく暮らす提案だけではなく、犬という動物をより理解してもらうための特集というのは、定期的に発信しています。

宮田:世界を見ても、猫や犬とのいろんな関わり方があるなと思いますし、こればかりは正解がない分、難しいところだなと感じています。人によって考え方も異なりますし、時代によって一般的な価値観も大きく変わっていきますし。そういう変化までも受け入れて、表現していくことが雑誌の使命かなとも思います。

――最新号の特集も『猫びより』では“猫を保護したら”、『Shi-Ba』は“犬と防災”と、それぞれ時代に即したテーマだなと感じました。

『決定版 猫と一緒に生き残る 防災BOOK』(辰巳出版)

宮田:保護猫については、猫を嫌いな人もいることに目を向けないといけないと、取材しながら感じました。保護活動をされている方にお話を伺ったとき「猫が苦手な方に味方になってもらえるように心がけています」とおっしゃていて。保護猫の活動が、猫の苦手な人の生活も快適にするアプローチでもあることを理解してもらって、協力しながら進めている方の話も聞くようになりました。視野を広げていくことも重要なんだなと感じています。

 やっぱり猫や犬の味方であろうと考える時、どうしても動物主体に考えられがちですが、その子たちを守れる人がいるのが大前提なんですよね。辰巳出版では猫、犬、鳥と『一緒に生き残る防災BOOK』シリーズを出しているのですが、その取材のときに「どんなにペットが大切で、自分の身を呈して守ったところで、その後ペットだけでは生きていけない。なので、自分の身を守ってください」という言葉を聞いて。それはその通りだなと。なので、動物との共生もまず、動物に目を向けるだけではなく、人を大事にするというのも考えるべきだと思っています。

――たしかに、飼い主自身が心身共に健康でないとペットの幸せは成り立ちませんね。

打木:そうですね。動物が好きな人ばかりではないという点では、お散歩のときのリードの扱いについて記事にしたときに感じました。今では「ノーリードはダメ」と広まっていますが、以前はリード=人間のエゴと考える人もいらっしゃって。それって苦手な人に対しての配慮であり、犬自身の安全を守るためでもあるんですよ。

 しつけのインストラクターさんや獣医さんなど有識者の方々に取材をすると「もっと犬のこういうところを知ってほしい」というお話もよくいただきます。なので、そういったお声をいただいたタイミングと、世の中の流れとを照らし合わせて、特集を組むようにしています。そして、あまり説教じみた感じにならないように、わかりやすい言葉や可愛い写真で伝えていくというのが、専門書ではなく雑誌にできることなのかなとも思っています。

――そのさじ加減が難しいですよね。最近の特集の中で、読者からの反響が良かったものはありますか?

宮田:猫の医療費についてはかなり注目されました。自由診療なのであくまで目安になるんですが「こういう治療だったらいくらかかかるよ」という聞きづらいお金のことを、やっぱり知りたいんじゃないかと思って。読者アンケートでも、かなり反響がありました。

打木:興味深かったのが、逆に犬の飼い主さんは聞きたいことがあったら獣医さんにどんどん聞いちゃうっていうアンケート結果が出たんですよ。きっとお散歩を通じてコミュニケーションを取る機会が多いというのも影響しているんじゃないかなと。それは犬と猫の違いを感じられて、新鮮な驚きでした。

『Shi-Ba』で最近特に反響が良かったのは、秋田犬特集号です。『Shi-Ba』は柴犬をメインに扱っていますが、秋田犬だったり四国犬だったり他にもいろんな日本犬の取材を20年以上続けています。その中で初めて秋田犬を表紙にしたこともあったのか、すごい反響がありました。秋田県で力を入れて活動されている方の取材や、SNSなどを通じて秋田犬のお写真を募ったところ大変盛り上がりました。

――あらためて読者のみなさんの熱量がすごいですね。

宮田:そうですね。他のジャンルの雑誌と比べて、アンケートや投稿のレスポンスが高いと思います。そうした声の中から気付かされることもたくさんあります。そうしたアンケートから「ペットと終活」というアイデアが出て、次号の特集にもなっています。

――逆にこれだけ飼い主さん自らSNSなどで写真などが発信できる時代に、雑誌が紙媒体としてあり続ける意味はどうお考えですか?

宮田:情報量に飲み込まれがちな時代なので、ちょっとずつ味わえるような雑誌になっていたいなとは思います。たくさんの情報を一気に得ようとすると、すぐ忘れちゃうというか。なので、心に残るような写真や記事といったことを心がけています。そのためにも、やっぱり紙の質は大事なんですよね。これはどの雑誌でも言えることだと思いますが、紙の値上がりがすごくて。

打木:本当に(笑)! でも、やっぱり紙が良くないと毛並みの調子とか目の輝きの見え方が全然違うんです。立体感がなくペタッとしてしまって、元気がなくなって見えるんです。コストカットが叫ばれても、そこだけは妥協できないです。

宮田:もう戦いですよね(笑)。本当に、最近は雑誌も安いものではなくなってきているので。紙の良さが「取っておきたい」と思えるものになるか、大きく左右しますし。

打木:私も同じ思いです。これからも1回の読み切りではなく、何度も何度も手にとってめくりたくなるような保存版を意識して編集しています。ずっと手元に残しておきたいと思われる雑誌を作っていきたいです。

■雑誌情報
『猫びより』2023年 秋号 Vol.130
定価:1,290円(本体1,173円+税)
体裁:A4判/128ページ
発売日:2023年9月12日
発行:辰巳出版株式会社

『Shi-Ba【シーバ】』2023年 秋号 Vol.129
定価:1,320円(本体1,200円+税)
体裁:A4判/114ページ
発売日:2023年8月29日
発行:辰巳出版

■関連雑誌
『チワワstyle』Vol.33
定価:1,430円(本体1,300円+税)
体裁:A4判/96ページ
発売日:2023年9月15日
発行:辰巳出版

『コーギーSTYLE』Vol.47
定価:1,430円(本体1,300円+税)
体裁:A4判/96ページ
発売日:2023年9月28日
発行:辰巳出版

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