ペット専門雑誌の役割はどう変化した? 創刊から20年以上愛される『猫びより』『Shi-Ba』編集長インタビュー

『猫びより』『Shi-ba』編集長インタビュー

 SNSで誰もが簡単に情報を収集&発信できるようになった現代。しかし、だからこそ「紙として手元に残したい」と思わせるものを提供することが、雑誌というメディアの担う役割として明確になってきているように感じる。

 紙媒体として絶大な支持を得ているペット雑誌。なかでも、辰巳出版より発行されている猫雑誌『猫びより』、日本犬専門誌『Shi-Ba』はいずれも創刊20年以上と長年愛され続けてきた。

 そこで今回は『猫びより』の宮田玲子編集長、『Shi-Ba』の打木 歩編集長にインタビューを実施。ペット雑誌ならではの制作秘話から、時代の流れと共に変化してきた雑誌の使命について話を聞いた。(佐藤結衣)

猫の自然体な魅力と、日本犬特有の共感を

左、打木 歩編集長。右、宮田玲子編集長。
『猫びより 2023年秋号』(辰巳出版)

――『猫びより』も『Shi-Ba』も創刊20年以上の歴史を持ちます。その誕生経緯についてお聞かせください。

宮田玲子編集長(以下、宮田):『猫びより』は2000年に日本出版社で創刊し、2012年に版元が辰巳出版へと移りました。創刊時は猫雑誌がたくさん出ていて、どれも飼育書のようなハウツーやエッセイなどの読み物系が主流でした。そんな中、『猫びより』では動物写真家の岩合光昭さんや、世界中で猫を撮り続けていらっしゃる写真家の新美敬子さんの連載を中心に、より「ビジュアルから楽しむ」という点を意識した猫雑誌にしたんです。それと文学、芸術、旅など、猫をきっかけに新しいジャンルについて知ることができる雑誌というのが、当時のコンセプトでした。(参考:地域に根ざして生きるネコたちのいきいきとした姿を写し出す 岩合光昭 写真集『ネコ日本晴れ』

――たしかに。毎号インパクトのある写真が表紙を飾っていますね。しかも、ナチュラルな猫の表情が印象的です。


宮田:そこは、こだわりです。作り上げられたかわいさではなく、自然体の魅力を捉えた写真をセレクトしています。その点も当時としては新鮮だったのかなと。

『Shi-Ba 2023年秋号』

――なるほど。『Shi−Ba』のほうはいかがですか?

打木 歩編集長(以下、打木):『Shi-Ba』は、柴犬をメインとし、日本犬に特化した雑誌として2001年に弊社から創刊されました。創刊当時、いろいろな犬種を扱う総合的な犬雑誌は多くあったんですが、日本犬の飼い主さんたちから「どうもうちの子に当てはまらない」「雑誌に載っている方法ではしつけがうまくいかない」といった声を聞くようになりました。犬は、犬種によってかなり個性が異なりますので、考えてみれば当然のことですよね。であれば、「日本犬ってこういうところがあるよね」と共感してもらえるような雑誌を作ってみてはどうだろうかというのが始まりでした。

――特化するということは、ある意味購買層をあえて狭めるというリスクにもなるのでは、と思うのですが。そのあたりはいかがでしたか?

打木:そうですね。創刊当時を知る社員が言うには、日本犬といえば屋外の犬小屋につながれて、食事もありあわせのものを……という認識がまだまだ根強かったそうなんです。だから「日本犬なんて雑誌にならないでしょ」なんて声もあったみたい。でも、いざ創刊してみたら驚くほど好評だったといいます。そうしたイメージがあったからこそ室内で過ごす方法や、一緒にお出かけするために役立つ情報に「こんな暮らし方もあるんだ」という発見があったのだと思います。

――おふたりはもともとペット雑誌を手掛けたいとお考えだったんですか?

宮田:いえいえ。子どものころから雑誌で育ってきた世代でしたので、雑誌編集には携わりたいなと思っていましたが、まさか自分がペット雑誌をやるとは思ってもみませんでした(笑)。犬も猫も好きだけど、実際に飼ったこともなかったので。なので、今猫と暮らしながら編集長として『猫びより』に携わっているのは、自分でも驚きの未来です。

打木:私もです(笑)。もともと犬好きではありましたが、まさかという感じです。編集者として働きたいというぼんやりとしたものはありましたが、このジャンルが必ずやりたいという希望はなくて。でも、きっと面接のときから犬好きが出ていたのかもしれないですね。結果、今こうして楽しく仕事ができているので、自分に合っているのだなと思います。

猫や犬に「許してもらう」までたっぷり時間をかける

――『猫びより』と『Shi-Ba』は現在どのくらいの人数で作られているのでしょうか?

宮田:すごく少ないんですけど、『猫びより』は私を含めて3名です。

打木:『Shi-Ba』はもっと少なくて、私ともう1人の2名です。

――え!?

宮田:でも外部のライターさんやカメラマンさんが50名近く協力してくださっていて。

打木:『Shi-Ba』も20名ほど、協力いただいているフリーの方がいらっしゃいます!

――そうだったんですね(笑)。

打木:みなさん、創刊当時からずっと携わってくださっている方ばかりなので、和気あいあいとした雰囲気のなかで進めています。

宮田:写真をセレクトするときも「きゃー、かわいいー」って声が飛び交っています。

――猫好き、犬好きには、たまらない仕事ですよね。

打木:そうですね。取材される側の飼い主さんたちにも喜んでいただけますし。みんなニコニコしている現場があるのは、すごく幸せなことだと思います。

――今まで数多くの取材をされてきたかと思いますが、ペット雑誌ならではのエピソードはありますか?

宮田:猫の取材では「待ち」がすごく重要なんです。喜んで出てきてくれる子というのは、なかなかいなくて。我々が気配を消して部屋に馴染むまでの時間が大事というか。猫に許してもらうまでの作業が必要なんですよ。飼い主さんのお時間が許す限り、長いときには2時間待つこともありましたね。その間に飼い主さんと雑談したりホームビデオを拝見したりして過ごすうちに、「お父さん、お母さんとお友だちなのかな?」「信頼してる人なんだな」と、安心して出てきてもらうのを待ちます(笑)。

――2時間も! それは警戒心の強い猫ならではの苦労ですね。

宮田:はい、本当に無理だけは絶対にさせられないので。最終的に出てこられない子については、カメラマンさんが1人でその子のお気に入りの部屋に入って撮るなんてこともありました。私やライターさんはもう外から祈るばかりでした。やっぱり猫が好きな方が読まれる雑誌なので、警戒している表情っていうのはわかっちゃうんですよ。猫をしらない人が見れば、目が真ん丸になっていると「くりくりして可愛いね」って思われるかもしれないですけど、うちの読者は騙せないので。リラックスした表情を見せてくれるまで粘ります。

――なるほど。日本犬もどちらかといえば孤高なイメージはありますが……。

打木:そうですね。家の中にすぐ入ると警戒して距離がなかなか縮まらないということもあるので、最初はお外をまず一緒に散歩して、遊んだり、おやつをあげるところから始めます。そのうちに「あ、別に悪くない人みたいだな」って打ち解けていく感じです。あとは、柴犬はマズル(鼻先から口周辺までの部分)が長いので、鼻先ではなく目にピンが来るように撮るのが難しいというのがあって。「せっかくいい表情をしてくれてるのに!」みたいなこともあります。なので、カメラマンさんには連写もうまく使ってもらっています。

――本当に現場に行ってみないとどんな写真が撮れるかわからないですね。

宮田:そうですね。なので、撮影前にラフレイアウトが切れないというか。逆に毎回「よく撮れたな」という写真が出てくるのも、この仕事の面白いところです。

打木:飼い主さんとも「この子はこういう子だから、こういう写真を撮りましょう」とコミュニケーションを取りながら、その子らしい姿を切り取った写真を掲載することにこだわっています。なので、発売後に「うちの子が載りました」という形でSNSに表紙の写真をアップしてくださったり、「たくさん買って親戚に配りました」といった喜びの声を寄せてくださる飼い主さんもいて、こちらもやりがいを感じています。

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