SFやミステリの名著が原作ーーWeb漫画業界に新たな波を呼ぶ「ハヤコミ」のポテンシャルを分析

創業79周年の早川書房。2024年7月23日にコミックサイト「ハヤコミ」 をローンチ

 「少年ジャンプ+」を筆頭に、大きな盛り上がりを見せるWeb漫画業界。さまざまなヒット作が注目を浴びる一方で、“尖った表現”を用いたオルタナティブな作品が生まれる土壌も育まれつつある。その代表格といえるのが、早川書房によるWebコミックサイト「ハヤコミ」だ。

  同サイトが始動したのは、7月23日のこと。早川書房といえばSFやミステリの総本山と言われるような出版社だが、その色合いを強烈に打ち出したサイトを立ち上げた。

  たとえば第1弾の連載としては、スタニスワフ・レム原作『ソラリス』のコミカライズがスタート。同作は『SFマガジン』のオールタイム・ベストSF投票で海外長編部門の1位を獲得したこともあるSF小説の金字塔だ。

  ソラリスという惑星にやってきた主人公が、一つの巨大生命である“海”の引き起こす不可思議な現象に巻き込まれていく……というストーリーで、思弁的で難解な展開が特徴となっている。アンドレイ・タルコフスキー監督が手掛けた映画版が、思弁性を前面に押し出した作りによってカルト的な人気を博していることも有名だ。

  そんな一般的には“とっつきにくい小説”を、「ハヤコミ」では森泉岳土が見事にコミカライズ化。繊細かつポップな筆致によって、幅広い読者を獲得しうる漫画へと昇華させている。

  同じく第1弾としては、“ミステリの女王”アガサ・クリスティーの代表作『そして誰もいなくなった』のコミカライズも連載中。同作といえば、海外ミステリのオールタイムベスト1位に選ばれたこともある古典中の古典だ。

コミカライズ担当の二階堂彩は、圧倒的な画力によって、今から80年以上前に執筆された原作を令和に蘇らせている。

 そのほか、アイザック・アシモフ原作『銀河帝国興亡史』(ファウンデーション)シリーズのコミカライズも要注目だろう。元々版権の関係でコミカライズが中断されていたものが移籍してきた形となるが、原作は膨大な巻数を費やして描かれたSF小説の古典的名作で、作中では銀河帝国をめぐる果てしないストーリーが展開していく。

 こうして連載陣を並べてみると、“ハヤカワらしい”作風の作品が揃っていることが一目瞭然ではないだろうか。また、継続的な盛り上がりが求められる一般的なWeb漫画とは違って、重厚な古典のストーリーをじっくり描き出せるのが「ハヤコミ」の強みとも言えるかもしれない。

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