激しいパンクの響きには“優しさ”が込められているーーISHIYA『Laugh Til You Die 笑って死ねたら最高さ!』レビュー

島田一志の『Laugh Til You Die』評

パンクという生き方を貫くために必要なもの

 また、本書で繰り返し書かれているのは、違う価値観を持った者同士でも、音楽を通じてわかり合うことができるということだ。たとえば、最初は敵意むき出しで観ていた韓国のある客などは、GIG終了後、「お前ら良かったぞ」と話しかけてきたそうだ。

 その他にも、本書の中でISHIYAは、こんなことを書いている。

家族というものへの認識が脱線していた俺にとって、友人こそ家族であったし、ツアーで行った街の食事や、友人の実家で出てくるおばあちゃんやお母さんのご飯が、俺にとっての家庭の味だった。(P.78)

言葉もよく分からないのだが、俺たちにはバンドがあり音楽があり、ハードコアパンクがあった。言葉が分からなくても、音で通じあえた。(P.229)

最初は日本のツアーで感じたことであるが、パンクスの世界というのはどこへ行っても変わらず、優しく愛に満ち溢れている。(P.270)

結局海外でも日本でも、ハードコアパンクスの優しさは同じなのかもしれない。(P.271)

何度来てもアメリカパンクシーンの優しさに助けられる。(P.418)

 果たして著者がどこまで意識して書いているのかはわからないが、このように、本書で繰り返し強調されているのは、世界中にいる“パンクスの優しさ”だ。むろん、パンクというものはそんな生温(なまぬる)いものではない、という意見もあるだろう。しかし、本当にパンクが好きな人間なら、ISHIYAが書いていることが真実だということは、すでにわかっているはずだ(だから私はいま、パンクに馴染みのない人たちに向けて書いている)。

 思えば、冒頭で挙げたTHE BLUE HEARTSの曲(「パンク・ロック」)にしても、「友達ができた/話し合えるやつ」という印象的な歌詞が中盤に出てくるではないか。ここでいう「友達」がどういう人物なのかは不明だが、少なくとも歌の主人公(おそらくは甲本ヒロトの分身)にとって、「僕のすきなもの」――すなわち「パンク・ロック」を共有したいと思える大切な存在であるのは間違いない。

 いずれにせよ、ISHIYAがいうように、パンクとは、単なる音楽を越えた、生き方のことである。ただし、人はひとりでは生きていくことはできないし、厳しい現実に立ち向かうには、“誰か”が傍にいた方がいい。そこで重要になってくるのは、やはり、同じパンクの魂を持った仲間たち(パンクス)と、その仲間たちを想う気持ちということになりはしないだろうか。

 そう、だからこそ私もまた、あの激しいパンクの響きには、(ハードコアであろうとも、オリジナルパンクであろうとも)多かれ少なかれ“優しさ”が込められていると思うのである。

■書籍情報
『Laugh Til You Die 笑って死ねたら最高さ!』
著者:ISHIYA(FORWARD/DEATH SIDE)
ISBN:C0073 978-4909852-44-1
発売日:2023年8月4日(金)
価格:3,000円(税抜)
判型:A5変形
頁数:472頁
発売元:株式会社blueprint
blueprint book store:https://blueprintbookstore.com

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