ISHIYAノンフィクション第三弾となる自伝的ツアーエッセイ『Laugh Til You Die 笑って死ねたら最高さ!』序文公開
FORWARD / DEATH SIDEのボーカリストであるISHIYAが、自身のルーツと数多くの海外ライブ体験について綴った自伝的ツアーエッセイ『Laugh Til You Die 笑って死ねたら最高さ!』が、8月4日に株式会社blueprintより刊行された。
『Laugh Til You Die 笑って死ねたら最高さ!』は、ISHIYAが自身の体験をもとにシーンの30年史を綴った書籍『ISHIYA私観 ジャパニーズ・ハードコア30年史』、1992年に34歳の若さでこの世を去った片手のパンクス・MASAMIの生き様に迫った『右手を失くしたカリスマ MASAMI伝』に続く、ノンフィクションシリーズの第三弾。世界各国でライブを行ってきた男・ISHIYAの自伝的ツアーエッセイであり、タイトルの「Laugh Til You Die」は、DEATH SIDEの楽曲名をそのまま使ったもので、著者の生き様が表れている。
本書の発売を記念して、リアルサウンド ブックでは序文「2004年6月」を掲載する。
2004年6月
「おお! ここがGG ALLINが住んでたアパートかよ」
「ハハハ! あなたは日本のGG ALLINですねー」
「んなわけねぇだろ!」
そこはアメリカのミシガン州デトロイト近郊にあるアナーバーだった。ミシガン州立大学を中心として成り立っているような街だ。
パンクの元祖と言われているIGGY POPのホームタウンであり、THE STOOGESが誕生した街でもある。
アナーバーには、ライブで人を殴る、ステージで排泄をした自分の糞を観客に投げつけ、自分の体に塗りたくる。挙げ句の果てには糞を食べてしまうパフォーマンスで、アメリカ最悪にして最狂のパンクロッカーGG ALLINが一時期住んでいた。
GG ALLINの大ファンだった俺、ISHIYAは、この街に訪れたときに「彼が住んでいたアパートがある」と聞いた。そして、今回のアメリカツアーをオーガナイズしたカナダのレーベル「UGLY POP」のサイモンに案内され、バンドのメンバーと訪れたのだ。
初めてのアメリカツアーでの時差ボケもやっと取れ、何本かのライブをこなしてきたので、何となくアメリカという国の感じがわかってきたところだった。
アナーバーには前日到着したのだが、ライブまで時間もあり疲れていたので休もうかと思っていたその矢先、その日に泊まる予定だった家に続々と人が集まりだした。手に持っているビールも、1缶や2缶ではなく、ケースや箱の明らかに大人数分だ。
「ライブ前にいったい何が始まるんだ?」
庭ではバーベキューの用意がされ、家に入りきれない人数が集まってくる。そして、「ハーイ」とかなんとか言いながら、みんなで酒を飲みだすではないか。
「な、何だこれは?」
これがアメリカ名物“ハウスパーティー”だと気づくまでに、そう時間はかからなかった。
「ライブ前にパーティー? マジかこいつら!」
郷に入っては郷に従え。せっかく来た初めてのアメリカだ。パーティーでも何でもやってやろうじゃねぇか! かなりの人数が集まり、どいつもこいつもバカ騒ぎをしていやがる。家主はアンディとその彼女だが、彼女はみんなの騒ぎに限界寸前だ。
そりゃそうだ。見知らぬアジア人がやって来たかと思えば、今度は知らない人間が大勢押し寄せ、静かに暮らしていた家がどんちゃん騒ぎになっている。マズイ。これは絶対にマズイ。彼女が怒りだす前に移動すべきだ! 生焼けで着火剤の味がするバーベキューを無理やり口に放り込み、パーティーをお開きにしてライブ会場へ向かう。
「今日はどんなところでライブなんだろうなぁ」
それまでのアメリカでのライブでは、日本のようなライブハウスはひとつもなく、バーが併設されたステージとマイクシステム、スピーカーだけがあるような場所が基本で、他はボウリング場だったりと、全てがカルチャーショックだった。「世界は広いんだなぁ」と実感していた矢先の、アメリカ体験初期であった。
そして、この日のライブ会場についた途端、メンバー全員の頭に「?」マークが浮かんだ。
「え? ここでやるの?」
「家? だよね?」
「うん。どう見ても人が住んでいる家だね」
「ライブだよね?」
「うん。これからライブだよ」
全く状況が飲み込めないまま、アメリカのどこにでもあるような普通の一軒家(と言っても多少はボロいのだが)にある玄関の扉を開けた。そこには廊下がありキッチンがあり、部屋がある、家の形状をした廃墟とまでは言わなくても、やはり古い普通の家だった。
映画に出てきそうな、パンクスたちがタムロする雰囲気の落書きだらけの家なのだが、そこの家主らしきパンクスがやってきて俺たちを歓迎してくれた。
「ようこそBAD IDEA HOUSEへ。ここでいつもライブをやっているんだ」
「マジか! ここでライブなのか! 家だぞ家! 昨日泊まった家より広いくらいじゃねぇか!」
口には出さなくとも、メンバー全員の声が聞こえてくるようだ。
「日本から来たんだよね? マーチャンダイズはこっちの部屋ね」
「子ども部屋か?」というような部屋にテーブルがあり、どうやら物販をするスペースのようだ。といっても6畳ぐらいだろうか、わけの分からないガラクタも散乱しているので、かなり狭い。
「ライブをやるのはこっちだよ」
メイン会場は、リビングと思われる家の中では一番広いスペースで、ドラムセットが置いてある。
「本当にここでライブをやるみたいだな」
メンバー一同が唖然とする中、開場時間が押し迫っていたので、シャツやレコードの入った段ボール箱を運び込み、物販部屋のテーブルにセッティングした。昨日泊めてくれたアナーバーのオーガナイザーであるアンディに物販を任せた。
通常、ライブ前は、ギターやベースのアンプ、ドラムセットなどを運び込むのだが、この日は手はずが整っているのか必要はないらしい。とは言っても、毎回ライブが始まる直前まで、どの機材を使うのかが分からない。
「本当にここでやるのかよ?」
「もうガタガタ言ってもしゃぁないよ。やるしかないんだから」
うっすらと覚悟を決めていく。今まで日本でどれだけ恵まれた環境でライブをやっていたのかと痛感し、アメリカハードコアパンクD.I.Y.(Do it yourself. 自分自身でやるの意味)の現実に、打ちひしがれる寸前だった。
あまりの衝撃の大きさに呆然としていると、すぐに出番だというではないか。どうやらこの日の出演バンドは少ないらしく、3バンドのようだ。そのうちひとバンドは地元では有名で、アメリカパンクシーンでもその名の知れたSTATEのため、俺たちFORWARDの出番は2番目だという。
出演直前までタイムスケジュールを知らなかったメンバーは、急いで準備をしているが、まだ曲順を決めていない。
「もうしゃあねぇから、ライブやりながら決めよう。日本語なんかわかんねぇだろうから、俺がマイクでみんなに曲名を聞くから、それをやろう」
それ以外に方法が見当たらない。すると一番セッティングの早かったツインギターのひとりT.Tが、聞いたことのあるメロディを弾きはじめた。
「テーレーレ レレーレーレ テレーレーレ レレーレー」
「お~れ~が いた~ん~じゃ およ~め~にゃ 行け~ぬ~」
寅さんこと渥美清の映画『男はつらいよ』のテーマソングだ! 初めてのアメリカで初めて体験するこの状況。この時の気分がありありと伝わるようなこのメロディ。
俺は床にあったマイクを拾い、声を出した。
「さぁ、何やる?」
こうして、バンド経験20年以上の俺でも初体験の、ハウスショーが始まった。始まってみると「こんなに盛り上がるのか」と驚くほどの大盛況で、これまで体験したことのない楽しさと充実感に包まれた。
「やっぱり、世界は広ぇなぁ」
2004年6月。俺自身初めての海外となる、アメリカツアー3か所目の出来事だった。
■書籍情報
『Laugh Til You Die 笑って死ねたら最高さ!』
著者:ISHIYA(FORWARD/DEATH SIDE)
ISBN:C0073 978-4909852-44-1
発売日:2023年8月4日(金)
価格:3,000円(税抜)
判型:A5変形
頁数:472頁
発売元:株式会社blueprint
blueprint book store:https://blueprintbookstore.com