【漫画】実際の話、異世界に転生したらゴブリンと戦える? リアルすぎるファンタジー『コミュ障、異世界へ行く』がスゴい

【漫画】『コミュ障、異世界へ行く』作者インタビュー

 現実社会で不遇だった主人公が、強力なスキルを持って異世界で無双するーー“異世界転生ファンタジー”が人気ジャンルとして定着して久しい。華々しいサクセスストーリーが展開され、“前世”の主人公が持っていた弱みや痛みが忘れ去られてしまう作品も少なくないなかで、異世界でも悩みを抱え続け、必死にもがきながら成長していく主人公の姿を描いた人気作がある。9月28日、LINEマンガで待望の連載再開となった『コミュ障、異世界へ行く』だ。

 本作の主人公・ジュンペイは、引きこもりの“コミュ障”。熱心にプレイしていたスマホゲームの世界に転生し、メタ的な知識を武器にサバイブしていくことになるが、考えてもみてほしい。生身の人間としてその世界に降り立ったとき、ゲーム内では雑魚モンスターだった「ゴブリン」と遭遇して、すぐさま「殺す」という選択肢を取ることができるだろうか。そんな戸惑いすらリアルに描写されている『コミュ障、異世界へ行く』は当然、物語の進行こそゆっくりだが、確実に読者を巻き込んでいくパワーを持っている。

 そんな異色の転生ファンタジーを手がけるのは、原作者の山下将誇氏と、作画を担当する宇上貴正氏のコンビ。長い付き合いでお互いを信頼し合い、厳しい時期も乗り越えてきた“バディ”でもある二人に、これまでのキャリアを振り返ってもらいながら、『コミュ障、異世界へ行く』にかける思いを聞いた。まずは第一話を読み、その世界を丁寧に作り上げている二人の生の声を聞いていただきたい。(編集部)

『コミュ障、異世界へ行く』第一話(続きを読むには画像をクリック)

©Shogo Yamashita・©Takamasa Ukami/LINE Digital Frontier

異世界で必死に生きて、成長していく主人公を描きたい

ーー『コミュ障、異世界へ行く』の連載前までのキャリアについて聞かせてください。

山下将誇(以下、山下):マンガ家を目指し始めたのは高校生の時です。在学中に東京の出版社に持ち込みに行ったところ、週刊少年誌の編集者さんが担当になってくれました。高校卒業後は会社員をしながらマンガを描き、マンガ賞を受賞することができました。社会人の経験を得るため3年仕事を続けたのち上京しました。上京後はアシスタントをしながら作品を描き、幾度かマンガ賞を受賞はするもののデビューができませんでした。

 7度目の受賞の時、次の作品でだめだったらもう諦めようと思い紙媒体からWEBに目を向け色々なマンガ投稿サービスに作品を投稿しました。そこで声をかけてくださったのがLINEマンガ インディーズの編集さんでした。トライアル連載という16週間好きに描いて人気があれば本連載化になるという企画(※当時。現在のトライアル連載期間は3~12週間)に参加させてもらい、人生初連載『エロマンガ家、異世界へ行く』の連載が始まり人気が出なかったため16週で打ち切りに。打ち切りが決まった時、担当編集さんが「もう一度やってみましょう」とチャンスをくれ、その2か月後『コミュ障、異世界へ行く』のトライアル連載を開始、今に至ります。

宇上貴正(以下、宇上):僕はマンガ家になろうと思ってたのは小学校のころからのようでして、小さいころからよく絵を描いてるタイプの子どもでした。専門学校で初めて編集さんにマンガを読んでもらい評価していただき、卒業後アシスタントをしながら持ち込みをするも結局受賞歴は月例賞の一番下の賞を数回くらいしか受賞したことありませんでした……(泣)。SNSでもこれまで特に話題にしてきませんでしたが子供がおりまして、授かったときに目の前の生活費や家族のサポートの方が大事になり、持ち込みからは距離ができてしまいます。その後は仕事の比重を増やし色々掛け持ちしながら生活してきました。

ーーご苦労もあったと聞いていますが、LINEマンガでの本連載に至った経緯と、そのときの思いも教えてください。

山下:トライアル連載が始まった当初は本連載のボーダーラインにかすりもしない状態でした。2週、3週と続けていっても読者数が伸びず、打ち切りコースでした。そんな中、担当編集さんにTwitter(現X)で一気に4話分呟いてもらうとその呟きが運よく4万以上ものいいねが付きアプリの方にも人が流れて読者数が激増しました。

 あの時リツイートして拡散してくださった方々には感謝してもしきれません。この呟きのおかげで無事本連載が決まりました。本当に運がよかったです。

宇上:『コミュ障、異世界へ行く』の前身である『ゲームで不遇職だった召喚士は異世界でも不遇職でした』以上に山下先生の前作『エロ漫画家、異世界へ行く』はLINEマンガ インディーズでもかなり反響があったのに打ち切りになってしまいました。山下先生とも話をしていて、これは『コミュ障、異世界へ行く』も厳しいだろうと覚悟していました。ただうまくいかなくてもこれを見てまたお仕事を依頼したくなるように頑張ろうと思っていましたので、第一話から背伸びをして作画をしています……(笑)。そんな中、本連載までたどり着けたのはもちろん運もよかったのですが、山下先生の原作の良さや、担当さんの助けがあってこそ、物語の魅力を読者の方々に伝えられたかなと思っています。本当にありがたいことです。とても嬉しかったです。

ーーお二人は宇上先生がマンガ業界に入った時からのお付き合いとのことですが、出会いやそれぞれの印象についても教えてください。

山下:宇上先生とは同じアシスタント先で出会いました。当時からすでに絵が上手く、宇上先生の描かれた学園物の原稿を(うまっ……!)と思いながら読んだことを覚えています。気さくで話しやすい方でお互い学生時代卓球部だったということで盛り上がりよく二人で卓球をしに行ってました。マンガの話はもちろん、一緒に映画を見に行ってどこがどう面白かったなど意見を言い合ったりもしてとてもいい刺激を受けてきました。気付けばかれこれ10年以上の付き合いになります。

宇上:山下先生はずっと熱いマンガが描きたいとおっしゃっていてその通りに描かれてきました。ジュンペイが机に向かって計画や反省を紙に書く姿は山下先生と重なります。昔はお互いの家の距離が二駅だったので近所でよく卓球しましたが今はそうはいかないですね(笑)。山下先生は下ネタをとても愛する方としても知られていますが、『コミュ障、異世界へ行く』の世界観では封印してもらっています(笑)。

ーー『コミュ障、異世界へ行く』の着想のきっかけについて聞かせてください。コミュニケーションが苦手な主人公、また「召喚師」を軸に据えたのはどんな経緯があったのでしょうか。

山下:異世界モノが好きだったので舞台は異世界と決めていました。あとはどういう人物を異世界に送り込むかを考え、どうせなら変な奴がいいなと思って出てきたのが、インターネットがないと生きていけないコミュ障=ジュンペイでした。もはやコミュ障というよりも対人恐怖症といったほうがいいと思うレベルなんですが。こんな主人公ならきっと家族に対しても上手くコミュニケーションが取れないはずだし、ゲームでも人と会話なんて出来ないはず。協力プレイなんてもっての外。だったら一人で疑似的なパーティを作れそうな魔物を従える系がいいな、なら召喚士で行こう!という感じで決まっていきました。個人的に召喚士ってロマンがあって大好きです。

ーー宇上先生は、原作を読んでどんな印象を持ち、作画においてどんなことを意識しようと考えましたか?

宇上:他人の気配を気にして泣かない、母親に母乳もねだれない赤ちゃんが面白くて本当にキャラクターづくりや導入がキャッチ―だなあと思いました(笑)。何か特別意識してるものがあるかと聞かれると難しいですが、山下先生のストーリーの良さを邪魔しないよう、作画担当として自分の得意なことやいいアイデアを出せればいいなと思っています。

ーー現世で不遇だった主人公がチート能力で無双する……というカタルシスではなく、異世界やモンスターがきちんと恐ろしくて、ゆっくり順応していく姿に共感しました。異世界転生系の人気作が多く生まれているなかで、物語、作画の両面でどんな差をつけようと考えていますか?

山下:人が成長する物語が好きです。人が何かに一生懸命になっている姿が好きです。物語の主人公が私たちと同じように日々悩み、苦しみ、時には壁にぶつかり挫折して、それでもなんとかまた立ち上がって、弱音を吐きながらも、少しずつでも進み諦めないで努力して成長していく。そんな物語が好きで、そんな主人公を描きたくてマンガを描いています。

 だから異世界転生といっても、与えられる力は大きくなく、特別な才能もない。あるのはゲームの知識と経験だけ。それも都合のいい裏技なんか存在せず必死になんとか生き残るのが限界な程度です。その世界で必死に生きて、成長していくジュンペイを描いていきたいです。それ以外で意識してるのはできるだけリアリティある異世界の生活を描くということです。そしてもし自分がその場にいたらどう思うか、ジュンペイはどう思うかをよく考えるようにしています。例えばいきなり見覚えのない世界で目覚めたら自分だったらこれは夢だと思うし、夢じゃないと分かったらどうにかして元の世界に帰りたいと思います。現実世界に絶望してたり、異世界にとてつもない憧れがない限りは大部分の人は元の世界に帰りたいと思うんです。

 生きるために生き物を殺すにしても自分だったら小動物さえかなり躊躇うと思います。ゲーム感覚で殺すなんてできないと思いました。それでも生きるためにという言い訳をして最後には命を奪うんです。そんな感じで「こういう時どう思うか」「どう感じるか」を自分自身やジュンペイに問いかけながら進めています。

宇上:正直、自分はそこまで異世界転生に詳しいわけではなくて、山下先生のインプット量に比べるととても少ないです。逆に山下先生は非常に詳しくて投稿サイトの小説もチェックしているほどですので、この作品が他と比べて差別化されているのでしたら山下先生のアイデアによるところが非常に大きいと思います。僕にはそんなに多くのことはできなくて、その時その時に伝えるべき情報をきちんと読者の方に伝わるよう描けるようにと思っています。

ーー各話の最後につく、セルフパロディ的なオマケマンガも楽しいですね。こちらはどんな形で製作しているのでしょう?

山下:各話の最後にあるオマケマンガは私が作っていました。少しでもいいねやコメントがついて作品が盛り上がって本連載に繋がればという思い半分、おふざけ半分です(笑)。

宇上:自分はそれを更新の日に見てゲラゲラ笑うポジションになります(笑)。

ーー多くの読者が楽しみにしている状況ですが、反響についてはどう捉えていらますか。

山下:私自身、更新日のコメントに目を通すのが楽しみでとても力をもらっています。本連載に進めたのも運が良かったからで実力ではないんだと自分に言い聞かせ日々試行錯誤しています。

宇上:もちろん原作は山下先生ですが、自分の描いたマンガがこんなに多くの方に楽しんでいただけるのがとても嬉しいです。小さな賞しかとったことない自分には大きすぎる反響だと思っています。

ーーネタバレにならない範囲で、あらためて本作の見どころと、今後期待してもらいたいポイントを教えてください!

山下:40話過ぎても最弱のゴブリンと戦っている本作ですがこれからも泥臭く、人付き合いに恐怖しながらも元の世界に帰るため必死に生きるジュンペイの旅を一緒に見届けてくださると嬉しいです。

宇上:この物語はジュンペイ以外にも様々なストーリーを持ったキャラクターたちが存在していて、これから交差していくのだと思います。今はまだ山下先生の頭の中にだけある計画をこれからも僕と一緒に楽しんでいってもらえたらと思います!

『コミュ障、異世界へ行く』

LINEマンガ:https://lin.ee/nlxojaS/pnjo


©Shogo Yamashita・©Takamasa Ukami/LINE Digital Frontier

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