【漫画】芸人を目指す女子ふたりがなぜこんなに眩しいのかーー『板の上で君と死ねたら』が“ちゃんと面白い”

『板の上で君と死ねたら』レビュー

 最後に友人と腹を抱えて笑い合ったのはいつだろうか、と考える。周囲の無関係の人々からすれば「何が面白いのか」ということかもしれないが、「こいつと話していると無敵になれる」という友人がいる、あるいはいたという人は、少なくないのではないか。

 ただの友情でも恋愛感情でもなく「一生こいつとバカなノリを続けていたい」という、ふざけているように見えて、わりと切実な思いーー青春の熱量と勢いを借りて、それを本気で実現しようと奮闘するふたりを応援したくなる漫画が、LINEマンガで連載中の『板の上で君と死ねたら』(三永ワヲ)だ。

 高校3年生、最後の文化祭で板の上=舞台に立つふたりの女子。ボケ担当の熊井由乃、ツッコミ担当の藤倉さわによるお笑いコンビ「藤倉熊井」は、学校の人気者だ。いつまでも一緒に笑っていたいと願うふたりだが、進路選択の時間が迫る。そんななか、さわがお笑い養成所のパンフレットを見つけてきて……。

©︎Wawo Mitsunaga/LINE DigitalFrontier
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 由乃は一般に「天然」と捉えられるかもしれない、少し変わった女の子だ。クラスメイトとのコミュニケーションに“ズレ”を感じていたなかで、見事なツッコミでその面白さを“翻訳”して見せたのが、(一見)クールビューティーなさわだった。由乃は明らかにさわに依存しているが、さわもまた、自分が見つけたおもろい宝物=由乃を手放すつもりがなく、卒業後も道をともにすることに迷いがない。ソウルメイトという言葉がぴったりのふたりが「お笑い」に本気になっていく姿が愛おしく、どのシーンもどこかエモーショナルだ。

 女性同士の絆を描いた、いわゆる「シスターフッドもの」という見方もできるが、それ以上に「青春」の眩しさと全力疾走に共感する作品だと感じる。「ふんわりいい話」に着地せず、ふたりがちゃんと悩み、それでも笑い合いながら前進していく姿が頼もしい。どちらかが折れかけても「ふたりなら乗り越えられる」という説得力があるのだ。

 「お笑いをテーマにした作品」というとハードルが上がるかもしれないが、ふたりのやりとりがちゃんと面白いので安心してほしい。高校を卒業して、共同生活を始めたふたり。お笑い養成所の学費は年間76万円だが、2ヶ月で貯まったのは1242円ーー。髪を切り、ウキウキで料理をする新妻ライクな由乃に、さわは「うきうき新婚さんごっこするために一緒住んでんのとちゃうねんぞ! 何 髪切ってんねん 戻してこい!!」とツッコむ。さわのツッコミはいつも的確で気が利いているし、呆然としながら、日本地図に太平洋ベルトが描かれた謎のエプロンをつけている由乃のセンスも光る。

©︎Wawo Mitsunaga/LINE DigitalFrontier
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 もちろん、プロになるには乗り越えなければならない壁が大小さまざまにあるが、彼女たちは彼女たちのやり方で、輝かしい時間=ふたりで笑い合い、いつしか学校中を爆笑に巻き込んだ「笑い」の範囲を拡張しようと奮闘する。厳しい現実を突きつけられることも、心ない(ように見える)言葉を投げかけられることもあるが、「友人と一生笑い合うこと」を当然のように諦めてしまった筆者には、どんな結果であれ、ふたりが失敗したとは思えない。社会人の読者はもしかしたら、ほんの少しの後ろめたさを感じながら、この愛らしいコンビを応援することになるのではないか。子どもじみた夢だと冷ややかに笑うより、ふたりのネタに爆笑できる人でありたい。

 『板の上で君と死ねたら』は4月30日まで、30話無料で公開されている。最後に友人と腹を抱えて笑い合ったのは、まさに今この瞬間ーーそう言える人生に飛び込んだ由乃とさわの活躍をぜひ、その目で確認していただきたい。

■『板の上で君と死ねたら』
作品URL:https://lin.ee/X3sCAZu/pnjo
©︎Wawo Mitsunaga/LINE DigitalFrontier

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