鬼滅の刃、まどマギ、SAO……人気アニソンの歌詞に“梶浦語”アリ アニソンファン必読の全曲詩集『空色の椅子』
エッセイの後半には梶浦が厳選した30曲についてのセルフライナーノーツも掲載され、ファンにとっては実に読み応えがあるものになった。今も世界中で根強い人気を誇っているKalafinaの楽曲にも深く言及しており、「Kalafinaのような音楽を紡ぎたくて、それまで音楽を続けて来た。Kalafinaの音楽には自分自身の欲望が溢れ出て、歌詞も曲も梶浦由記そのものだった」と綴る。
本書のタイトルである『空色の椅子』も、Kalafinaの5thアルバム『far on the water』の収録曲から取って付けられている。梶浦は20歳くらいの時に父親を亡くしており、その時期に書かれたのがSee-Sawの「不透明水彩絵の具」で、Kalafinaの3rdアルバム『After Eden』に収録の「neverending」は、父親に対する懐かしさと憧れが書かれた。それから約4年後に発表された「空色の椅子」は、どこか懐かしさ溢れる牧歌的なバラードで、座る者のいなくなった椅子を喪失感の象徴としながら、喪失感や寂しさを受け入れ、共に歩んでいく決意が静かに歌われている。その楽曲を本書のタイトルにした理由については本書の中では言及されていないが、30周年という区切りのタイミングで、自身の音楽の原点である父親への感謝と敬意、そしてこれからも一緒に歩んでいく決意を表明したかったのかもしれないない。
歌として聴く歌詞と文字として読む歌詞は、その印象は全く異なるものだ。本書では真っ白いページに黒い文字で歌詞が並び、音とメロディを剥がされたことで、少し緊張してこわばっているように見える。しかし丸裸が故に、そこに込められた思いと情景が、真っ直ぐ胸に飛び込んで来るといった印象だ。「椅子は人の形を残しやすいアイテム」とも綴られており、本書を椅子とするならば、梶浦由記という人間の形をありありと写したのが、こも『空色の椅子』という1冊だろう。