伝説の縦読み漫画『タテの国』を横読み漫画にしたらどうなった? 読み比べ体験に驚き

『タテの国 <reboot>』斬新な漫画表現

 対して『タテの国 <reboot>』では、いきなり2ページの見開きで、右上から左下へと貫くように巨大な塔が描かれており、一枚絵としての迫力はこちらの方が強いと感じた。

 漫画アプリで配信されている漫画は、スマートフォンで読むことを想定して作られている作品が多く、小さい画面で読まれることを前提としている。そのため極端に引いた全体像やゴチャゴチャとした複雑な構図は避けられる傾向が強く、シンプルな構図のコマ割りを一コマずつ見せていくことが最適解となっている。

 縦スクロール版『タテの国』を読んでいると、演出上の制約が多くて、描くのに苦労したのではないかと感じる。対して、A5サイズとなったペーパーバック版では、コマのサイズによって変化するカメラアングルが実に雄弁で、緩急のある豊かな表現となっている。その結果、巨大な塔の中に存在する「タテの国」内部の上下の空間の広がりは、より説得力のあるものとなって読者に伝わってくる。

 次に視点は「タテの国」内部へと向かい、下の世界がどうなっているのか知りたがっているルスカの心情が描写される。その後、上の世界から落ちてきたオメガを目撃したルスカは「あの女に追いついてやる」と思って、衝動的に下の世界に飛び込むこととなるのだが、このシーンの印象も縦スクロール版とは大きく異なる。

 まず、ペーパーバック版では1ページ丸ごと使って、ルスカが飛び込む姿が描写される。その後、暗闇の中を10日に渡って落下する場面が2ページの見開きで描かれており、派手な画に生まれ変わったと言える。しかし、読者が自分の手でスクロールすることによる相乗効果もあるためか、落下するルスカに同調する感覚は、縦スクロール版の方が強い。

 ランドセル型の飛行装置でルスカが落下するオメガを追いかける場面も、横スクロール版の方が臨場感がある。スクロールしながら読むという形式には、まだまだ可能性があるのだと、ペーパーバック版を読むことで逆に気付かされた。

 縦スクロールの『タテの国』には、一人称の小説を読んでいる時や、主観映像のゲームをプレイしている時に感じる臨場感がある。逆にペーパーバックの『タテの国 <reboot>』は、三人称で描かれたSF小説のような世界を俯瞰する視点を感じ、巨大スクリーンで物語を眺めているような、壮大なスケールが生まれている。

 同じ物語がここまで印象が変わるのかと意外だった。2倍楽しめるため、比較しながら読むことをオススメしたい。

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