松村邦洋が語る、100万部突破の時代小説「三河雑兵心得」シリーズの面白さ 「足軽の立場から見た家康はまた違う」
通説とは違う解釈を見せるところに歴史物語の魅力がある
――最後に、松村さんが考える「歴史小説」あるいは「歴史ドラマ」の面白さについて、改めてお聞きしてもいいですか?松村:歴史物語の面白さは、個人的にはやっぱり「こんな説があったらなあ」というところにあります。そうやって、妄想を膨らませることが楽しいというか。「俺もそう思ってたんだよ!」って納得することもあれば、「こんな解釈があったんだ!」って驚かされたりもする。だから、フェイントこそが面白いというか、次はどんなフェイントを見せてくれるんだろうって期待してしまいます。
――「フェイント」ですか?
松村:打つと思ったらバントをしたり、ここはバントだろうって前に出たら、急にバスター仕掛けてきたりするっていう(笑)。そうやって予期せぬことが起こるから面白い。当たり前のことを当たり前のようにやっていたら面白くないんですよね。もちろん、史実としてすでにはっきりしていることもあるんでしょうけれど、逆に基本的な史実さえ合っていれば、僕は物語の中で何をやってもいいと思っているんです。そもそも史実には、実はわかっていないことも山ほどありますから。
――史実とされていたことが、その後の研究で覆されることもありますからね。
松村:「北政所」と言ったら、昔は「ねね」だったけど最近は「おね」だし、今は「淀君」じゃなくて「淀殿」って言ったり、「濃姫」じゃなくてうちは「帰蝶」でいかせてもらいますとか、女性の名前なんてはっきりしたことはわからなかったりするわけで。あと、明智光秀にしたって、大河ドラマ『麒麟がくる』を観て、僕は「これまで悪人のように描かれることが多かったけど、こんな描き方もあるんだ」とすごく驚いて、面白かったんです。「そうきたか!」というフェイント、通説とは違う解釈を見せるところに歴史物語の魅力がある。まあ、『どうする家康』の光秀は、また悪人のように描かれていましたけど(笑)。
――「くそたわけ!」って吐き捨てるように言っていましたよね(笑)。
松村:言っていましたね。「家康の口に、腐った魚を詰めてやる!」って(笑)。ただ、そうやって同じ人物を描いたとしても、その人をどんな視点で見るかによって、また違うと思うんですよね。それこそ徳川四天王をはじめ、「株式会社・家康」の役員クラスの人たちから見た家康と、茂兵衛のような平社員の立場から見た家康はまた違うんでしょう。それは四天王たちも同じですよね。家康には見せない顔を、茂兵衛には見せているはず。どこの集団にもいるじゃないですか。上の人にはこびへつらっているのに、下のものに対しては強く当たったりする人が(笑)。そういう、良くも悪くも「知られざる顔」みたいなものが、茂兵衛の目を通して描かれるところも、この「三河雑兵心得」シリーズの面白いところだと思います。
■書籍情報
著者:井原忠政
発売日:2023年9月13日
価格:726円
出版社:双葉社
「三河雑兵心得」シリーズ公式サイト
https://fr.futabasha.co.jp/special/mikawa/