小説紹介クリエーター・けんご「読書になじみがない人でも楽しめる」という『名著奇変』の魅力を解説

 新感覚の名著×ホラーミステリの短編アンソロジー『名著奇変』(飛鳥新社)が刊行された。次世代の小説家6人が、教科書に載っているような日本文学の短編をオマージュし、現代風の作品に仕上げている。夏の暑さを吹き飛ばす、ヒヤリとした読み心地の本だ。

 

名著奇変
収録された短編とオマージュした名著は次の通り。「SNSの中の手紙」(柊サナカ Feat.葉山嘉樹『セメント樽の中の手紙』)、「影喰い」(奥野じゅん Feat.谷崎潤一郎『陰翳礼賛』)、「Under the Cherry Tree」(相川英輔 Feat. 梶井基次郎『櫻の樹の下には』)、「カムパネルラの復讐」(明良悠生 Feat. 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』 )、「せりなを書け」(大林利江子 Feat. 太宰治『走れメロス』)、「山月奇譚」(山口優 Feat.中島敦『山月記』)。

 巻末の作品解説を担当している小説紹介クリエーター・けんご氏は、このアンソロジーを「驚嘆しながら読んだ」と話す。TikTokなどのプラットフォームで若い世代の読書ムーブメントを牽引する氏に、本書の魅力を存分に語ってもらった。(篠原諄也)

ーー早速ですが、本書を読んだ感想を教えてください。

けんご:文豪が書いた名著をオマージュした作品集ですが、それぞれの短編にホラーミステリ要素があって、とても面白いと思いました。名著をわかりやすく噛み砕いていて、ストーリーの流れをつかむことができます。どのように原作を改変して物語を展開しているか、原作を読んだ人からするとそれを考えながら読むことで新たな発見があるはずです。

 現代は小説以外にも、色々なエンタメが普及しています。YouTubeやTikTokはもちろん、サブスクで映画を簡単に見ることができる。そうした中で、文豪の名著というと、難しくてとっつきにくい印象がある人も多いはずです。でも、この本をきっかけに、読み比べをするのはとても素敵なことだと思います。今はスマホですぐに青空文庫(著作権保護期間を終えた作品を中心に公開している電子図書館)で無料で読むこともできますね。

ーー自分の知っている名著のオマージュ作品から読むのも良さそうです。

けんご:そうですね。この中では、太宰治『走れメロス』、中島敦『山月記』、宮沢賢治『銀河鉄道の夜』などは、名前は聞いたことがあるという人もいるはずです。その中でも例えば、第5話「せりなを書け」(大林利江子 Feat. 太宰治『走れメロス』)。『走れメロス』はいわゆるハッピーエンドの終わり方をする物語なんですけど、この作品では、絶望感のある終わり方をしている。その描き方の違いをぜひ比較してみてほしいです。事前にオマージュ作品を読んだというだけで、名著の楽しみ方や感じ方は大きく変化すると思います。

ーーオマージュの仕方は作家の方によって多種多様でした。

けんご:どれも現代風にアレンジしているのが、物語にすっと入っていけて親しみを持てる要因だと思います。第1話「SNSの中の手紙」(柊サナカ Feat.葉山嘉樹『セメント樽の中の手紙』)でいうと、作中で重要な役割を持つ「手紙」をSNSのDM(ダイレクトメッセージ)に改変しています。現代を生きる僕らからすると、手書きの手紙よりも、SNSのほうが親しみがあります。

 特に今の中学生や高校生にとって、SNSはかなり身近な存在です。Twitterやインスタグラムなどでは、見知らぬ人から急にDMで連絡が来ることもある。怪しい内容だったとしても、つい気になって読んでしまうという気持ちもわかるんですよね。本作はそうした心情描写もすごくうまいと思いました。

ーー人間の心の暗部に迫る作品が多いように感じました。

けんご:現代はSNSが普及した分、学校のいじめは過激さが増したのではないかと思っています。第4話「カムパネルラの復讐」(明良悠生 Feat. 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』 )が、まさにその問題を扱っています。

 いじめは加害者側のほうが自覚がないということを鋭く描いている。自分は悪意を持っていない何気ない言動でも、相手からしたら嫌なことをされたと思っていることもあります。自分の過去を振り返った時に、大丈夫だっただろうかと思わされました。読んでいてゾッとするものがあります。

 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』では、カムパネルラという登場人物が苦しみを抱えています。それをうまく現代風にアレンジしていて、こういうオマージュの方法があるのかと、驚嘆しながら読みました。メッセージ性の強い作品だと思います。

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