宮崎駿の最新映画で話題 吉野源三郎の小説『君たちはどう生きるか』はどんな話なのか?
ナポレオンにコペル君が心酔した時に、おじさんがノートに書いた言葉も今の政治を考える上で役に立つ。革命後のフランスが権力闘争に明け暮れて疲弊していた時に現れ、国内をまとめあげ諸外国の干渉も跳ね返したナポレオンをおじさんは評価する。しかし、「皇帝になると共に、ようやく権力のために権力をふるうようになって来た。そして、自分の牽制を際限なく強めていこうとして、次第に世の中の多くの人にとってありがたくない人間になっていった」と非難もする。
「英雄とか偉人とか言われている人の中で、本当に尊敬ができるのは人類の進歩に役立った人だけだ。そして、彼らの非凡な事業のうち、真に値うちがあるものは、ただこの流れに沿って行われた事業だけだ」。今の政治家や政策はどうだろう。考えたいと思わせるエピソードだ。
これらのおじさんからの言葉は、漫画版でも読むことができて、キャラクターのリアクションを通してすんなりと読む人に入ってくる。だからベストセラーになったとも言えるが、原著の方にはさらに、文化についておじさんが語ったエピソードを読める。
ギリシャやローマから日本へといたる広大な土地を文化が伝わったことを教え、「日本人は、すぐれたものはすぐれたものとして感心し、ちゃんとその値うちが分かるだけの心をもっていたんだね。遠い異国の文物でも、すぐれたものには心から感心して、それを取り入れ、日本の文明をぐんぐんと高めて行った」と語って、「学問や芸術に国境はない」と訴える。
井の中の蛙になりがちな今の風潮に反して、すぐれた海外作品のエッセンスを表現やストーリーに取り入れつつ、自分の中にある考え方を打ち出したアニメーション作品を作る宮﨑駿監督を、言い表しているような言葉だ。『君たちはどう生きるか』を読むことは、宮﨑駿監督自身に迫ることなのかもしれない。