【漫画】“大バカ”な少年が叶えた、龍との約束ーー創作漫画『バカは煙より高い所に立つ』の結末がエモい

――『バカは煙より高い所に立つ』はどのように制作されたのでしょうか。

樹土:本作は漫画雑誌の新人賞に向けて制作した作品です。当時は全く違う話を作っていて、担当編集さんと打ち合わせを続けていたのですが、どうにも上手くまとまらず頭を抱えていました。

――かなり煮詰まっていたのですね。

樹土:はい。私は読み切り作品を描き上げるには2~3ヶ月程かかります。漫画賞にも締切があるため、なんとか悩み続けた中で生まれたのが本作です。自分の好きな“人と人外”というテーマと、「龍は月に住んでいて、空に昇った龍は月に向かう」という設定がなんとか浮かび、作品に落とし込みました。

――登場人物は作り上げるうえで意識したことを教えてください。

樹土:龍は強く、賢く、威厳と誇りのあるキャラというのは初めから決まっていました。自分の思う龍という生き物に対するイメージをそのまま落とし込んでいる感じです。「そこにどんなキャラをぶつけたら良いのか」を考え、主人公の弥一郎は生まれました。龍とは真逆の弱くてバカな子供。でも頭は柔軟で、真っ直ぐ。愛すべきバカです。

――龍が人を殺す描写があるため、“ツッコミキャラ”というイメージとはならず、終始緊張感が流れている印象でした。龍のポップさと残酷さのバランスはどう意識しましたか?

樹土:龍は人外なので、人間の道徳観や価値観とは違う視点で世界を見ています。その価値観の違いが明確にないと、ただの角と尻尾の生えた女の子になるため、「そこはしっかり描きたいな」と思っていました。とはいえ、彼女は必要であれば人間とも戦いますが、別に人間嫌いというわけでもありません。「ただの怖い存在として描くよりも、ある種の“人間らしさ”というか俗っぽさも描きたいな」という思いもありました。そのあたりは弥一郎が引っ掻き回してくれたおかげで、「勝手にコミカルになっていったかな」という感じです。

――龍が襲撃者を一掃するシーンの作画は快感がありました。本作の作画の中でも特に気合いが感じられるカットですが、このカットを描くうえで心掛けたことはありますか?

樹土:龍が初めて龍の姿を見せるシーンでもあるので、「インパクトがほしいな」と思い、見開きで迫力を持たせたかったという狙いがあります。弥一郎以前に挑んだ人間が尽く敗れた最強の龍、もはや人間では太刀打ちできそうもない、嵐のような存在を伝える一コマにしようと描きました。

――弥一郎と龍の2人の会話劇は、ボリュームがありながらテンポよく読み進められました。

樹土:会話のテンポは自分の中で自分の中で“気持ちのいいリズム”みたいなものがあり、そうなるように言葉のキャッチボールをしてもらっている感じです。ギャグ漫画や漫才、落語なんかが大好きなので、そういったところからの影響はあるかもしれません。

――バトル漫画に見せかけて、2人の会話劇で繰り広げられ、そして将棋が始まる……という目まぐるしい展開でした。そもそも、なぜ将棋という展開を採用したのですか?

樹土:「少年が龍を退治するなら肉体的な勝負ではないはず」と考え、はじめから「少年が刀で龍をバサッと斬り伏せる」みたいな物語は考えていませんでした。そこで「人間の生み出したゲームでなら少年でも戦いができるかな」と。特に将棋のようなテーブルゲームなら、より2人の会話で関係性を掘り下げることができ、時代感や世界観にマッチしたので採用しました。最後のシーンにも、わかりやすいアイテムとして将棋盤を使えることも大きいです。

――ちなみに月面での対局というラストは最初から決めていたのですか?

樹土:初めから決めていました。『かぐや姫』の物語がなんとなくこの話の根幹にはあって、『かぐや姫』ではかぐや姫が月に行きますが、登場人物はみんな大人なので、そこでもう諦めて追うことはしません。ただ、「もっと純粋に追いかけていけるバカならば、その先にたどり着いてくれるだろうな」と思ってこのラストになりました。また、最後のシーンの映像が頭の中に浮かんでいたので、「絶対にあの絵を描きたい!」という気持ちがありました。

――今後の目標など最後に教えてください。

樹土:現在は担当さんと連載獲得に向けて読み切り作品作りを継続しています。また、『月刊少年ガンガン』(スクエアエニックス)3月号に、商業デビュー作となる『クロスレンジ~訳有聖女と不器用聖獣~』という読切漫画を掲載していただきました。今後も連載を目指して漫画制作を続けていくので、良ければ応援してもらえると嬉しいです。

■樹土風さんの作品はこちらから

Pixiv:https://pixiv.net/users/1820471
Twitter:https://twitter.com/JyudoFu
『バカは煙より高い所に立つ』:https://twitter.com/JyudoFu/status/1666454057010049029

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