『【推しの子】』だけじゃない、サスペンス×アイドル漫画 通底する”心理”とは
「ファンとアイドル、その絶対に埋まらない距離」
2021年6月から「コミックDAYS」で連載されていたオガワサラの『推しが辞めた』も、アイドルものとサスペンスを巧みに組み合わせた漫画だ。
同作の主人公・みやびは、人気ボーイズグループ「6hourS」の“ミクくん”を生きがいとする25歳のアイドルファン。派遣社員として働くかたわら、推し活の資金を副業の風俗で稼いでいた。
しかし人生をかけて応援してきたミクくんが、ある日突然脱退。その理由を追い始めた彼女は、あらゆる手段を講じて彼の情報をかき集め、ある「禁忌」を知ることになる……。
同作はアイドル文化をファン目線から描いているのが特徴で、推しに依存することの闇からも目を逸らしていない。主人公を含むアイドルファンたちは、推し活によって人生の喜びを得る一方、資金を集めるために各々が危険を冒している。
ところで『私のアリカ』と『推しが辞めた』は、いずれもアイドルの世界をファン目線で描いている部分が大きい。作品を読むことで伝わってくるのは、アイドルとファンの間にある“絶対的な距離感”だ。
それはラブコメのように徐々に縮んでいく距離ではなく、絶対に埋まらない距離だと言えるだろう。だからこそファンたちは、推しに対して信仰のような感情を抱く。
こうした距離感は、アイドルものとサスペンスの相性のよさとも関係しているはずだ。ファンにとってアイドルの世界は決して到達できないものであり、憧れと同時に秘密を秘めたブラックホールでもある。謎の真相に迫っていくサスペンスの舞台として、これ以上ない設定なのだ。
『【推しの子】』の大ヒットにより、今後も多くのサスペンス×アイドル漫画が生み出されていきそうだ。次はどんな傑作が生まれるのか、引き続き注目していきたい。