『機動戦士ガンダム 水星の魔女』スレッタ敗北の“衝撃と必然”……このままもう1週間ヤキモキしろと?

 スレッタ・マーキュリー、初の敗北……! こんなにイヤな「一回主人公が負けて落ちるところまで落ちる展開」は、正直アニメでは初めて見た。

 スレッタをプロスペラの呪縛から断ち切るため、ベネリットグループ総裁選への出馬を決めたミオリネ。自分と父親との唯一のつながりであるジェターク社を守るため行動を開始したグエル。地球と宇宙との戦力均衡を実現するため、ベネリットグループのトップの座を狙うシャディク。前回までで総裁選に向けた三者三様の動機と行動が出揃い、具体的な行動に移ったのが今回の17話と言える。

 プロスペラからスレッタへの干渉を防ぎ、スレッタが自由に生きていくためには、エアリアルを取り上げる必要がある。そう判断したミオリネはグエルと共闘、グエルはスレッタとの決闘に「敗北したらエアリアルを渡す」という条件をつけた。さらにグエルがホルダーであるスレッタに勝利すればミオリネの婚約者となり、ミオリネがグエルの協力で選挙に勝利しベネリットグループの総裁になれば、ジェターク社の復興も果たせる。2人の計画はざっとこのようなものである。

 言ってしまえば、1話でグエルがスレッタに敗北する前の時点の状態に戻った形である。しかし、そこに至るまでにミオリネにもグエルにも色々あった。親に押し付けられた形ではなく、自らの選択で選んだ道ならば互いに納得もできる。苦い経験を経た2人が今回交わした会話は、大きな精神的成長を感じさせるものであった。

 しかしそれにしても、なんというか、もうちょっとちゃんと話をすればこんなに荒っぽい方法をとることにならなかったんじゃないの……という気持ちである。ミオリネお前、もっと言葉を尽くしてスレッタに説明すれば、ママにべったりのスレッタも多少は聞く耳を持ったんじゃないの!? 説明抜きで強引に話を進めちゃうのって、君の嫌いなクソ親父のやってたことそのまんますぎん!? もうちょいちゃんと会話しよ!?

 そんな「愛ゆえに自ら身を引く」みたいなミオリネの重すぎるムーブに比べると、今回もエラン5号は絶好調である。上司であるペイル社からエアリアルの奪取を言い渡されていよいよケツに火がついたエラン5号、今回は力技でスレッタを口説きにかかるも失敗し、それならばとスタンガンを持ち出したところでグエルに関節を極められ、最終的にグラスレーに匿われるという小物ぶり。そのくせ妙に飄々と開き直っているので逆に嫌味がなく、重たいストーリーの中で一服の清涼剤のような存在になっている。

 この、何も持たないところから才覚だけで成り上がろうとし、なんとかして生き延びようとするジタバタ具合に好感が持てるところは、『風の谷のナウシカ』のクロトワに一脈通じるところがあるように思う。しかし、キザっぽくていけすかない感じだったエラン5号が、よもやこんなことになるとは……。勝手に暴れ回られてしまっているエラン本人がこれを知ってどう思うか、ちょっと見てみたいところである。

 今回の見どころは、やはり後半のグエル対スレッタの決闘だろう。父を殺し、地球で地獄を見たグエルが、トラウマを押し殺してなんとか戦おうとする姿は胸に迫るものがあった。一方で、どう考えても調子に乗っていたのがスレッタである。

 決闘の最中のセリフにもあったが、スレッタの心はもうミオリネとのハネムーンに飛んでいる。当のミオリネがどれだけ重たいムーブをキメているのかも知らず、プロポーズに指輪にドレスと、完全に浮かれている。なんせ相手は、今まで2度も勝っているグエルである。改修型のエアリアルなら、多少壊れていても負けることはないだろう……。一言で言えば、スレッタは慢心していた。

 一方でグエルの方は、この勝利にジェターク社の命運がかかっている。何がなんでも勝たねばならない。かつてはプライドをへし折られてしまったAIも動員し、新装備に換装したダリルバルデを用意し、それでもなおスレッタとエアリアルに勝利できるかはわからない。自分がこれまでに負ったトラウマもある。しかし、それでも戦うことをグエルは選んだ。

 そういった立ち位置の違いを、17話では戦闘シーンでの戦い方でも表現している。スレッタは遠距離からビームを乱射し、近づかれたらオーバーライドとガンビットの集中射撃の力押し、挙句の果てにガンビットライフルを直接グエルに当てようとするという暴挙を決行しようとした。ひょっとして本気でガンビットライフルを当てようとしたのか……? 死ぬのでは……。

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