ファンタジーでよく見る設定「魔術」「魔女」「悪魔」を考察

「魔術」「魔女」「悪魔」を考察

■異教の魔術、魔女、悪魔

 魔術の歴史は非常に古いが、初期西洋魔術は異教の要素を多分に含んでいた。

 そのため、ヨーロッパのキリスト教化によって一度衰退している。

 『空の境界』(奈須きのこ(著) 講談社)に登場する蒼崎橙子や『Fate』シリーズのクー・フーリンが用いるルーン魔術はルーン文字を用いる魔術だが、ルーン文字はアルファベット(ラテン文字)とは異なる起源を持つ。

 ドイツ北部とスカンジナビア半島でアルファベットとして使用されたルーン文字は4世紀ごろに始まったゲルマン人の民族移動でヨーロッパ各地に広まったが、11世紀ごろにスカンジナビア半島までキリスト教が広まると、徐々にラテン文字が一般化し、使われなくなった。

 キリスト教が力を得るにつれてルーン文字はヘブライ文字などと同じように文字そのものに魔力が宿る魔術的な文字と考えられるようになった。

 14世紀のノルウェーでは黒魔術と同時にルーン文字の使用禁止令が出されている。中世の魔女狩りではルーン魔術を使った廉で多くの人々が魔女として処刑された。

 なお「ルーン」には「神秘」「秘儀」などの意味がある。

 魔女の儀式のことを「サバト」と呼ぶのをご存じの方は少なくないだろう。

 多くの創作物で目にするが、ハートウォーミングなラブコメマンガ『死神坊ちゃんと黒メイド』など、ファンタジー作品ではバックグランドとしてサバトが登場することもある。

 『魔法少女まどか☆マギカ』に登場する最強の魔女「ヴァルプルギスの夜」は北欧、中欧で4月30日に行われる祭りに由来する。

 魔女と結びつけられたのはキリスト教伝来で古来の習慣が異教の儀式になってしまったためだ。

 悪魔も同様である。

 『超図解 一番わかりやすいキリスト教入門』(インフォビジュアル研究所 (著), 月本 昭男 (監修) 東洋経済新報社)によると安土桃山時代に来日した宣教師たちは仏教を「悪魔の教え」と言っていたらしい。宣教師たちは自分たちの文化秩序とはかけ離れた異文化は神の秩序に反するもので、そこから人々の魂を救いだすのは神に与えられたミッションと考えていたのだ。

 自分たちの教義に反するものを魔女と結び付けた理屈と同じである。

 また、キリスト教において魔女は悪魔と密接な関係として考えられている。

 キリスト教において悪魔に魂を売り、デーモン(悪霊)と契約した者が「魔女」と考えられていた。その文脈で中世には忌まわしい魔女裁判が行われた。

 魔女裁判は中世が過ぎ、近世になっても無くならなかった。

 17世紀のアメリカでは、悪名高いセイラム魔女裁判が起きており、200名近い村人が魔女として告発された。

 この痛ましい事件は多くのフィクションで題材になっている。

 有名どころだと、やはりアーサー・ミラーの戯曲『るつぼ』だろう。同作はアメリカ演劇界の最高権威であるトニー賞を受賞し、後に『クルーシブル』として映画化された。自ら映画脚本を手掛けたミラーはアカデミー賞の最優秀脚色賞候補になっている。

 ゲームアプリ『Fate/Grand Order』の1.5部4章のシナリオ「禁忌降臨庭園セイレム『異端なるセイレム』」はセイラム魔女裁判事件にハワード・フィリップス・ラヴクラフトのクトゥルフ神話の要素が付け足されている。

 ローマカトリックのトップである教皇ヨハネ・パウロ2世(当時)が十字軍、異端審問、魔女裁判、反ユダヤ主義について公式に謝罪をしたのは20世紀も末となった2000年の事である。

 魔術を魔女と結び付け弾圧したカトリック教会だが、キリスト教そのもののにも魔術的要素が含まれ、公認していた魔術もある。

 ミサとエクソシズム(悪魔祓い)がその代表例だ。

 特にエクソシズムはフィクションではお馴染みの設定と言っていいだろう。『青の祓魔師』(加藤和恵(著) 集英社)など現役連載マンガではタイトルそのままの代表例だろう。

 さて、このエクソシズムだがその存在を一般にしらしめたものはやはり『エクソシスト』(ウィリアム・ピーター・ブラッティ(著) 東京創元社)および同作を原作とする同名の映画だろう。同作は世界的な大ヒット作となり、ホラーには冷たいアカデミー賞で作品賞候補になり、原作・脚本を担当したブラッティは脚色賞を受賞している。

 今回はエクソシズムと悪魔契約について述べていく。

 なお、本稿は全体的な部分を『図解 魔術の歴史』(草野巧(著) 新紀元社)、エクソシズムに関しては『バチカン・エクソシスト』(レイシー・ウィルキンソン(著) 文藝春秋)を参照していることを注釈しておく。

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