【漫画】筒井康隆の実験的小説のコミカライズへの挑戦 世界から文字が消えていく『残像に口紅を』

【漫画】筒井康隆『残像に口紅を』漫画化

 だんだんと世界から「文字」が消えていく――。 筒井康隆氏が1989年に発表した伝説の実験小説『残像に口紅を』。使えなくなった文字が、その文字を含む言葉とともに世界から消滅していくという難解な作品が、漫画家・寺田浩晃さん(@terada_hiroaki)の手によってコミカライズされた。その冒頭がXに転載されている。

 “漫画化することの意味”を熟考し、オリジナルを読み替えて完成した内容に筒井氏からも太鼓判を押されたという。ただのコミカライズに収まらない本作について寺田さん本人に聞いた。(小池直也)

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『残像に口紅を』(原作:筒井康隆・漫画:寺田浩晃)

――Xに投稿した際の反響はいかがでしたか?

寺田:原作者である筒井康隆先生がリポストしてくださったので、それにより多くの方に読んでいただけたと感じています。

――なぜ、寺田さんがコミカライズを担当されることになったのでしょうか。

寺田:KADOKAWAの編集さんからご連絡をいただいたのがきっかけです。筒井先生のお名前と原作のタイトルは知っていたのですが、未読だったので、すぐ拝読しました。非常に面白かったですね。「これをどうやって漫画にするのか……」と悩みましたが、せっかくのお話ですし、ぜひ挑戦してみたいと思いました。

――原作を読んだ感想について、もう少し詳しく教えてください。

寺田:有名な『時をかける少女』のようなウェルメイドな物語のイメージを持って読み始めたのですが、ドラマやストーリーというよりも、まさに“実験小説”という印象を強く受けました。

――実際の制作はどのように進められましたか?

寺田:まずは描き始めるにあたって「コミカライズとは何だろう?」という本質を考えました。今の時代に本作を漫画にする意味を、自分なりに見つけなければいけないなと。

 その後、原作を何度も読み込み、関係者の方にもお話を伺う中で、やはり本作や筒井先生の意図する核は、メタフィクション性や実験性にあると感じました。筋書きをなぞるだけでなく、作品のコアな部分を活かしつつ、新人作家としての自分の立ち位置で、メタフィクション性や実験性を取り入れながら描く、というコンセプトで制作を進めていきました。

――かなりチャレンジングな制作だったようですね。

寺田:特に、文字が減っていくにつれ描写を制限していく点はとても苦労しました。例えば、『あ』という言葉がないから「シャワー」が使えない為、桶で髪を洗うシーンに描き直したり、「ライター」が使えない為、作中人物がタバコを吸うシーンはマッチで火をつけたり……。逆に登場人物の吸うタバコの銘柄が物語が進むにつれ変わっていくという、この作品ならではの遊び心みたいなものも入れてあります(笑)。

——なるほど。

 ほかにも、2話目で「パ」が消えるので、主人公はパソコンではなくアナログで小説を書いていますし、「枠線」という言葉が消えれば枠線も使えなくなります。でも「画(が)」という文字は残っているから、絵は描けるはずだ……とか。ラストの見開きのシーンは、「これでは誤印刷だと思われるかもしれない」と、担当編集の方と話し合いになりました(笑)。

 担当の方だけでなく、校正のみなさんにもたくさん手伝っていただきました。冗談めかしく作中で「使えない言葉を見つけた方は連絡を」と書きましたが、幸い単行本発売から1年経った現在まで、そのような指摘はひとつも届いていないそうです。

――筒井さん本人ともやりとりをされたのでしょうか。

寺田:編集さんを通じてやりとりさせていただきました。ネームを確認いただいた際は、直筆でお褒めの言葉をいただき、自分の目指した方向性は間違っていなかったんだと救われた気持ちになりました。

――本作は、寺田さんにとってどのような作品になりましたか。

寺田:ものすごく苦労した作品ではありましたが、自分のキャリアとして取り組めて本当によかったです。声をかけてくださった担当編集さんには感謝しかありません。

 現代はものにあふれ、あらゆるものが大量消費され、失われることに対する感覚が希薄な時代だと思います。だからこそ、この失われていく物語、それにより本当に大事なものが浮き彫りになっていく物語は、今描く意味のある物語だったと感じています。

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