村上春樹新刊にみる書店の格差問題 首都圏「山積み」地方は「5冊届いてびっくり」

村上春樹の新刊地方書店にはほぼ届かない?

東京の大型書店は村上春樹フィーバー!

 村上春樹の最新長編小説『街とその不確かな壁』(新潮社刊)が、4月13日に発売された。紀伊國屋書店新宿本店では、午前0時の発売解禁に合わせてカウントダウン形式で祝福するイベントを実施。会場を訪れた多くのファンが買い求め、発売を祝った。店のシャッターが開くと、うずたかく積まれた本にファンから歓声が上がり、マスコミも駆けつけてお祭り騒ぎの様相を呈していた。

 首都圏の書店では、まさに村上春樹フィーバーである。新宿の紀伊國屋書店新宿本店はイベント開催後、朝7時から早朝販売を開始。本がうずたかく積み上げられ、通勤、通学途中のサラリーマンが競うように買い求めていた。

 対して、地方の個人経営の書店はどうか。以前にリアルサウンドブックで取材を行った、人口約1万4千人の秋田県羽後町の農村地帯に唯一残る書店、「ミケーネ」の阿部久夫店長に13日、話を聞いた。

「ミケーネ」の阿部久夫店長。写真=背尾文哉

村上春樹の新刊、果たして入荷冊数は…?

――今日は6年ぶりとなる村上春樹さんの長編小説『街とその不確かな壁』の発売初日です。本は入荷しましたでしょうか。

阿部:今朝(13日の朝)、取次から届いた段ボールを開けてびっくり。なんと5冊も入っていました。こうした人気の新刊は、うちだと今まではお客さんからの注文が入っているのに、初日に1冊も入ってこないケースが珍しくなかった。今回はいったい何があったのでしょうか。理由はわかりません。

――5冊入ったのは、ミケーネにとって画期的なことなのでしょうか。

阿部:これまでだと村上春樹の新刊が初日に入荷することはまずなかったので、どうしても初日に読みたいというお客さんには、うちがAmazon から取り寄せて渡していました。もちろん利益は出ませんよ。もしくは、Amazonで買ってもらった方が早いですよとアナウンスしていました。村上さんのようなビッグネームの新刊が初日に入るなんて、本当に驚きです。

――村上さんの話題の新刊ですので、ミケーネにとっても弾みがつくのではないでしょうか。

阿部:この5冊は予約分だけで売れてしまいましたが、まだ予約の残りが3冊あります。追加注文をかけても数日以内に入荷するかどうかは怪しいですね。配本された分を売り切ったら次の入荷は未定、こんな本屋が全国にいっぱいあります。

――『ぼっち・ざ・ろっく!』のような漫画本も東京の大型書店では重版分が山積みになっている一方で、地方の書店では入荷が少ないと聞きます。

ミケーネ店内にある漫画の棚。売れ筋の本は注文してもなかなか入ってこないという。

阿部:漫画の売れ筋も、注文をかけてもなかなか入荷しませんね。大型書店やアニメの専門店に行けば山積みになっていると思いますが、個人の書店にはすぐに配本してもらえないのです。注文してもいつ届くかわからないため、お客さんはAmazonに流れてしまいます。

――「ミケーネ」の経営は今後どうしていくのでしょうか。

阿部:町唯一の本屋を守って欲しいという声はたくさん寄せられています。本屋の売り上げ減を補填すべく、ミケーネは、時代に合わせて複合経営していきます。これまでにやっていた学習塾のほか、茅葺き民家を使った民宿も力を入れますし、今週からクリーニング店(中継事業)も始めました。いつまで続けられるかわかりませんが、うちで本を求めるお客さんがいる限りは頑張っていくつもりです。

地方の書店を残す道を探るべきだ

 12日、阿部店長に連絡をしていたときは「1冊も入らないと思う」と悲観的な見方をしていただけに、まさかまさかの5冊の入荷は衝撃であった。ただし、阿部店長の発言にもあったように、今回は稀に見る珍しい事例だそうである。基本的には、ミケーネには話題の新刊は数日遅れで入荷するか、出版社によっては事実上配本されないこともあるのだ。

 このような状態なので、地方で話題の本を真っ先に入手するためにはAmazonしか選択肢がなくなる。実際、記者の友人の地方在住の熱心な読書家も目と鼻の先に個人経営の書店があるのだが、「いつ入るかわからないので、Amazonで買います」と語っていた。

 近年、様々な業界で個人経営の小売店の淘汰が進む。人気ブランドのスニーカーやアメリカ製のエレキギター、スイス製の高級腕時計などは、もともとは問屋経由でどこでも仕入れられたものが仕入れられなくなり、馴染みの顧客の要望に店が応えられなくなる事例が続出している。

 幸いにも本はどんなに時間がかかっても書店で取り寄せることはできるため、まったく買えなくなったわけではない。出版社も取次も、売上が大きい大型店に経営資源を集中させたいのは当然なのだろう。しかし、それでいいのだろうか。いつでもどこでも等しく本が買えるのが日本の書店流通網の強みであったはずだし、それが日本文化を豊かにしてきた源泉ではなかったか。せめて予約分だけでも、初日に入荷するようなシステムができてほしいものだ。

 出版文化産業振興財団(JPIC)の調査によれば、書店が一つもないいわゆる“書店ゼロ”の市 区町村は約26・2%にのぼるという。今後、電子書籍の普及や長引いたコロナ騒動の影響もあって書店の閉店は加速するものと思われる。今こそ、地方の文化の殿堂たる書店を守る動きが起こって欲しい。書店の存在意義は我々が想像している以上に大きいのである。

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