村上春樹、最新長編小説『街とその不確かな壁』発売にファン歓喜 「玉手箱を開けるような感じ」「有休をとって読む」
村上春樹の最新長編小説『街とその不確かな壁』(新潮社刊)が、4月13日に発売された。紀伊國屋書店新宿本店では、午前0時の発売解禁に合わせてカウントダウン形式で祝福するイベントを実施。会場を訪れた多くのファンが買い求め、発売を祝った。
本作は2017年に刊行された『騎士団長殺し』以来、実に6年ぶりとなる長編。1980年に発表された「、」の一文字違いの中編小説『街と、その不確かな壁』をベースに執筆されたものと言われている。
4月12日、発売30分前頃になると、書店の前には新刊の発売を待ちわびていたファンが集まり始めた。電光掲示板にはカウントダウンの時刻が表示され、スマホで撮影する人の姿も。10秒前からカウントダウンが開始され、0時になった瞬間、電光掲示板が発売を知らせる告知に変化。会場から割れんばかりの拍手が巻き起こった。その光景を通りがかった人も足を止めて見入っていた。
店のシャッターが開くと、うずたかく積まれた本にファンから歓声が上がった。最初に買い求めたファンは1980年代からの熱心なファン。新刊の内容について聞かれ、「まったくわからない、玉手箱を開けるような感じ。楽しみで仕方ないです」「徹夜で朝まで読む。そのために有休をとっています」と語った。村上作品は、「等身大の主人公も、エキセントリックな主人公もいる点が魅力」だそうだ。
多くのマスコミからインタビューを受けていたのが、二子玉川を拠点に村上春樹作品の読書会を行っているFutako Book Clubのメンバー。会員の三本俊輔さん(39歳)は23年を超える熱心なファン。「新作をお祭りムードで受け取れたのは貴重な体験です。執筆に時間のかかる新作長編を読める機会には限りがあると思うので、大切に読みたいと思います」と語った。
また、同メンバーの渡辺浩太朗さん(32歳)は、「村上さんの小説はいろいろな引き出し口があり、いろんな解釈の余地がある。読書会でもみんな好きな点が違います。村上さんは“井戸”という言葉をよく使いますが、異なる職種の人同士がファンになって、井戸の中で深く繋がれるのも魅力」と話した。この後、メンバーで深夜営業の喫茶店などに集まり、さっそくページをめくるとのことだ。
ほかにも会場からは、「村上春樹の長編は貴重なので心して読みたい」「コロナ禍の中で執筆された小説なので内容がどうなっているのか気になる」「分厚くてずっしりと重いので読みごたえがある」「新宿でカウントダウンを行えて、まるで年越しのような気分が味わえた」などの声が聞かれた。また、紀伊國屋書店新宿本店の担当者は今回の企画について、「物語を求めるファンの期待に応える書店でありたい。今後もこうした企画をやっていきたい」とコメントした。
村上春樹の新刊の発売が、出版業界はもちろん、書店業界にとっても一大イベントになっていることを実感させられるイベントであった。