鉄道車両デザインに革命を起こした「水戸岡鋭治」集大成となる圧巻の図鑑

水戸岡鋭治のデザインを知る書籍

 JR九州をはじめ数々の鉄道車両のデザインを手がけてきたデザイナー/イラストレーター水戸岡鋭治の仕事をまとめた書籍「水戸岡鋭治 デザイン&イラスト図鑑」(玄光社)が発売された。

 水戸岡鋭治氏は大阪のデザイン会社勤務などを経て1972年にドーンデザイン研究所を設立。「ホテル海の中道」のアートディレクションに関わったことが縁で、88年に同ホテルにアクセスするJR九州のリゾート列車のデザインを担当する。ここから鉄道車両デザインに進出し、「つばめ787」「ソニック883」「ゆふいんの森」などの傑作を次々世に送り出した。その仕事は、船舶やバスなど鉄道以外の交通機関、さらに駅舎や店舗、商業施設やリゾート施設に関わるデザインまで多岐にわたる。

 特徴的な「顔つき」や大胆なカラーリング、木材や本革などそれまでタブーとされてきた素材の使用など、水戸岡氏は鉄道デザインに新風を巻き起こした。その真髄は、細部まで詰められた内装デザインにある。どんな座席に座ってどんな窓から景色を楽しみ、どんな食事を楽しみたいか、サービスも含めたトータルなコンセプトに基づいてデザインを構築。中でも「ななつ星in九州」に代表されるD&S(デザイン&ストーリー)列車は、使用する素材も吟味して施工には地元の職人を起用するなど、贅を尽くしたものになっている。

 なぜ膨大なイラストを収録したのか。本書は6つの章を立て、カテゴリーごとに作品を掲載。冒頭にはイラスト入りの年表を入れ、水戸岡氏の仕事が時系列で把握できるようになっています。作品には「額縁」をつけてギャラリーを見て回るような趣向になっているが、数を絞ってきれいに配置するのではなく、「図鑑」のコンセプトで可能な限り多くの図版を詰め込んでいる。細かな素材も合わせると画像点数は3000点近くに及ぶ。

 そこには、「一つのモノを作るのに大量のデザイン画が必要であることを伝えたい」というメッセージが込められている。水戸岡氏の事務所では、鉄道車両や建築デザインでは不可欠とされる模型をあえて作らず、イラストだけを使ってクライアントへの説明やプレゼンを行っている。単なる完成図だけでなく、それが利用されるシーンもビジュアル化するため絵がたくさん必要になるが、模型や映像で説明するよりもしっかりイメージが伝わるとのこと。

 水戸岡氏の仕事は膨大なメモ書きとアイデアスケッチからスタートする。それをもとにブラッシュアップを重ねてデザインを固め、そこからデザイン画、イラストが描かれる。収録作品には、そうしたスケッチ類も一部含まれる。また、モノだけにとどまらない「提案」も多数行っており、本書にはまだ実現していない「ドリームプラン」も収録。

 鉄道が好きなあらゆる世代の方が読者ターゲットだが、特に車両デザインに興味を持ち始めたお子さんに見てほしいと水戸岡氏は話している。「僕の絵は説明のための絵だから」と文字情報を最小限に抑えたのも、「読んで理解する」のではなく、何度も見返して、そのたびに何かを感じて「発見」してほしいという考えから。

 水戸岡氏は自身が直接関わって本を作るのはこれが最後とも話す。本書は文字通り、水戸岡氏とドーンデザイン研究所の50年に及ぶ制作活動の集大成であり、絵に込められた「デザインの心」を未来のデザイナーの卵たちに伝えていく一冊となる。

■作家プロフィール
水戸岡鋭治(みとおかえいじ)
1947年岡山県生まれ。県立岡山工業高校デザイン科卒業。サンデザイン(大阪)、STUDIO SILVIO COPPLA(ミラノ)を経て1972年ドーンデザイン研究所設立。88年「アクアエクスプレス」で鉄道デザインに進出。JR九州をはじめとする車両デザイン、公共デザイン、建築物・商業施設デザイン等に携わる。

■商品概要
書名:水戸岡鋭治 デザイン&イラスト図鑑
発売日:2023年4月18日
定価:3,500円(税別)
仕様:B5判 256ページ
ISBN:978-4768316627
アマゾン:https://amzn.to/3oq1eJF
出版元:株式会社玄光社

【会社概要】
商号 : 株式会社玄光社
所在地 : 〒102-8716 東京都千代田区飯田橋4-1-5
設立 : 1931年
事業内容 : 出版
URL : https://www.genkosha.co.jp/

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