西村京太郎『殺しの双曲線』はじめ、名作ミステリーの復刊続々 マニア多きジャンルの強み
そういえば『殺しの双曲線 愛蔵版』も、有栖川有栖が解説を担当していた。現役のミステリー作家が、このような活動に力を入れているのは、ミステリーというジャンルならではだろう。ミステリーとSFの研究家・フリー編集者、アンソロジストの日下三蔵も、さまざまな形でミステリーの復刊を行っている。最近の仕事では、春陽堂書店の「合作探偵小説コレクション」が素晴らしい。創元推理文庫や中公文庫も、マメに作品集を刊行。行舟文庫は、竹本健治編の『変格ミステリ傑作選 【戦前篇】』『同 【戦後篇Ⅰ】』を出している。ちょっと前になるが、推理小説研究家の山前譲が編者を務めた、光文社文庫の「昭和ミステリー・ルネサンス」シリーズも要チェック。個人的には、新章文子の短編集『名も知らぬ夫』に大喜びした。新章は単行本未収録の短編が山ほどあるので、他社でも出してくれないものか。また、同人出版も盛んだ。なかでも、西荻窪の古書店「盛林堂」の「盛林堂ミステリアス文庫」や、平山雄一の「ヒラヤマ探偵文庫」(翻訳もの中心だが、日本人作家の作品も何冊か出している)の活動には瞠目すべきものがある。
さて、このような状況が生まれた主な理由はふたつある。ひとつはジャンルにマニアが多いことだ。編集者や作家など業界側にマニアが多く、さまざまな企画を実現するために動いている。一方、読者にもマニアが多い。もちろん他のジャンルにもマニアはいるのだが、ミステリーは、商業出版が成り立つだけのマニアが存在するのだ。これはミステリー界の強みといっていい。
もうひとつの理由が、面白い作品が大量に眠っていることだ。電子書籍はさておき、書店の棚が有限である以上、紙の本は一握りの名作を除いて、いつかは絶版になる。しかし本当に面白い作品は、何度でも甦るのだ。それこそが物語の力である。今は、ミステリーが目立っているが、どのジャンルの作品だって、面白い作品が眠っている。だから、それが復刊される日を待っているのである。