『Deep Love』『恋空』大ヒットで知られるスターツ出版、ライトノベルでも覇者となるか?
『鬼の花嫁』シリーズが大ヒットを記録しているスターツ出版株式会社が、2024年度中期経営目標を初年度で達成する躍進を見せている。当初の計画では、2024年度12月期までに売上高66億円を目標としていたが、2022年度12月期の実績は売上高70億円を達成。2月13日には、修正計画として2024年12月期までに売上高80億円を目指すことを発表した。(参考:スターツ出版/中期経営計画の修正に関するお知らせ)
好調を支えたのは、書籍コンテンツ事業。同社には小学生向けレーベル「野いちごジュニア文庫」から大人男性向けレーベル「グラストNOVELS」まで、読者ターゲットを細分化したさまざまなレーベルがあり、社長の菊地修一氏は「1つのレーベルが大当たりしたということではなく、すべてのレーベルが着実に成長を遂げています。また、新型コロナウイルスが拡大する中、3つのレーベルを立ち上げることにチャレンジし、いずれも成功を収めています」と、コロナ禍において業績が伸びた理由を明かしている。(参考:MINKABU/スターツ出版、ターゲットを細分化したマーケティングの徹底により、全レーベルが着実に伸長)
スターツ出版は、早くから紙メディアと携帯電話・ウェブの連携を行っており、ケータイ小説の分野でYoshi『Deep Love』(2002年刊行、シリーズ累計売り上げ部数270万部突破)や美嘉『恋空』(2006年、シリーズ累計発行部数730万部突破)などの一大ベストセラーを世に送り出してきた。同社の刊行物の特色を、ライトノベルや投稿小説に詳しいタニグチリウイチ氏に聞いた。
「スターツ出版は、読者に近いところから発信されたオリジナルの物語を書籍化し、流通に乗せてファンを掴むことに長けています。2010年代に入って『小説家になろう』や『エブリスタ』といった小説投稿サイトが幾つも興隆する中、ケータイ小説で獲得した女性ファンをそのまま取り込むような形で小説投稿サイト『Berry’s Cafe』などを立ち上げ、作家を募り読者を集める循環の中からヒット作を生み出してきました。
異世界ファンタジーの分野で強い存在感がある『小説家になろう』発の作品や、女性向けを意識したファンタジーや伝奇ロマンが並ぶKADOKAWAの富士見L文庫、少女小説の牙城だったコバルト文庫の伝統を受け継ぐ集英社オレンジ文庫など、大手版元のレーベルがライバルとなる中で、スターツ出版は少女から大人まで女性読者を軸にターゲティングし、『このレーベルなら読みたい作品が見つかる』と認知させたこと、小説投稿サイトから書籍化やコミカライズなどの出口を自前で持っていることで、一頭抜けた存在感を保ち得たのではないでしょうか。
2019年に立ち上げられた『小説サイト ノベマ!』から生まれた、累計で100万部を突破したクレハ『鬼の花嫁』シリーズは、虐げられた境遇にあった少女が鬼の花嫁となったことで救われ、癒やされていく展開で読む人の心を浮き立たせました」
『グラストNOVELS』などの男性向けのレーベルは、同社の今後の成長を左右する鍵になるとタニグチ氏は見ている。