【追悼】大食い魔女・菅原初代さんが綴った“漫画愛”ーー公式ブログに残る優しいレビューたち

“大食い魔女”菅原初代さん、漫画好きの一面

 “大食い魔女”の愛称で知られ、多くのイベントやテレビ番組で活躍した菅原初代さんが3月9日、死去していたことが伝えられた。近年でも『水曜日のダウンタウン』などバラエティ番組への出演で強い印象を残しており、突然の訃報を悲しむ声が多く聞かれている。

 「大食い」だけではなく、何に対して常にストイックで、求道者のような印象もあった菅原さん。一方で、美術館巡りやアート作品の蒐集を趣味として、今年2月には地元盛岡市でコレクションを展示販売する個展を開くなど、芸術にも深い関心を持つ感性豊かな人物だった。個展は大腸がんの治療を続けるなかで、自分の死後も「作品を愛してくれる人へ託したい。次の居場所をつくりたい」(2023年2月8日/盛岡経済新聞)と、作品やアーティストへの愛ゆえに企画されていた。

 菅原さんの感性に響いたのは、漫画作品も同様だ。オフィシャルブログ「魔女菅原のブログWith Witch」には、「マンガ」とタグ付けされた投稿が176件。作品について丁寧にストーリーを追い、多くの印象的なレビューをファンに届けている。

 例えば、ドラマ化で話題になった『大奥』(よしながふみ)の最終巻&公式ビジュアルファンブック(『大奥―没日後録―』)を手にした際には、「江戸時代はとっくに終わっているのになぜ、いまもう江戸は終わってしまったと寂しい気持ちなのか」と素直で詩的な言葉を綴り、萩尾望都の自伝的作品『一度きりの大泉の話』については、自身の過去を重ねながら、過去の作品を買いあさり、関連記事が掲載されている古雑誌を手にするところまでレポートしている。

 3月21日よりNHKでアニメが放送される『夜廻り猫』など、漫画好きの間でじわじわと人気を広げた新作もフォローしており、ジャンルにもこだわらない。印象的だったのは、『SLAM DUNK』で知られる井上雄彦が車いすバスケを描いた『リアル』についての投稿だ。

 不定期連載であり、2014年11月から約4年半の休載もあった『リアル』について、「6年もの長い間新刊が出なかったのは、主役である野宮君が一回自分自身を見限って浮上するまでに必要な時間だったのではないか」と菅原さん。なんと素敵な解釈だろうか。読者は「早く続きが読みたい」「きちんと完結させてほしい」と考えがちで、『リアル』の掲載ペースにも賛否あるところだが、菅原さんは完結することよりも物語が続いていることに価値を見出し、「リアルが現実という意味なら、現実には完結は有り得ないわけで、つづくしかないと思う」と語っている。

 菅原さんが漫画を含めたアートをどう楽しみ、どう伝えてきたのか。フードファイターとして戦うストイックな姿を思い起こすだけでなく、ブログに綴られた繊細で感性豊かな人柄にも思いを馳せながら、ご冥福をお祈りしたい。

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