「マンガ大賞2023」最終候補は初ノミネート&ネット発の作品がずらり? 全11作品+選外の注目作を解説

「マンガ大賞2023」最終候補を解説

 「マンガ大賞2023」の最終候補作となる11作品が出そろった。選考員による投票を経て受賞作品が決定する。どの作品が受賞しても話題になりそうなノミネート作品の中から、賞のコンセプトとなっている「今、この瞬間友達に一番薦めたいマンガ」として選ばれるのはどの作品か?

■「マンガ大賞2023」ノミネート作品■
『あかね噺』馬上鷹将、末永裕樹
『女の園の星』和山やま
『劇光仮面』山口貴由
『これ描いて死ね』とよ田みのる
『さよなら絵梨』藤本タツキ
『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』地主
『正反対な君と僕』阿賀沢紅茶
『タコピーの原罪』タイザン5
『天幕のジャードゥーガル』トマトスープ
『日本三國』松木いっか
『光が死んだ夏』モクモクれん
(50音順)

 2022年1月1日から12 月31日までに単行本が発売された作品のうち、最大巻数が8 巻までのマンガ作品から、1人の選考員が最大5 作品に投票する形で行った1次選考で、挙げられた242作品のうち得票数が多かった11作品が、「マンガ大賞2023」の最終ノミネート作品となった。

 今回のラインナップから見えるのは、初登場作品が多いということだ。過去に最終候補としてノミネートされたことがある作品は、和山やま『女の園の星』のみ。それ以外の10作品は今回が初の最終候補作入りとなる。また、最近の傾向を反映して“ネット発”の作品も並んだ。

 『怪獣8号』や『SPY×FAMILY』など話題作を続々と送り出している漫画サイト「少年ジャンプ+」からは、昨年の候補作となった『ルックバック』に続いて、『チェンソーマン』の藤本タツキが一挙掲載した『さよなら絵梨』がノミネート。映画のスクリーンのように横長の1コマが、1ページに4段描かれるコマ割りで続いていく作品で、テーマとなった映画ともシンクロして目を惹きつけた。

 タイザン5『タコピーの原罪』も「少年ジャンプ+」で連載された作品で、子供たちを取り巻く過酷な状況をえぐるような内容で、新しいエピソードが掲載されるたびにSNSで大きな話題となった。評判を得てタイザン5は「週刊少年ジャンプ」誌上で『一ノ瀬家の大罪』を連載スタート。少年向けの漫画でも深い社会問題を描けることを見せており、受賞すれば話題を呼びそうだ。

 阿賀沢紅茶『正反対な君と僕』も「少年ジャンプ+」での連載作品。元気な女子の鈴木と物静かな男子の谷くんとの関係を描いた学園ラブコメ。『タコピー』のような"問題作"も載れば気楽に楽しめる『正反対の君と僕』も載る「少年ジャンプ+」の幅広さが、漫画サイトでもトップクラスの人気を博している背景か。

 “ネット発”ではモクモクれん『光が死んだ夏』がヤングエースUPでの連載作品。少年2人が暮らす集落で奇妙な出来事が起こるストーリーから、恐怖が漂う一方で少年たちの思いが伝わってきて引き込まれる。

 地主『スーパーの裏でヤニ吸うふたり』もTwitterでの連載から始まり、月刊ビッグガンガンで連載されるようになった"ネット発”の作品で、ブラック企業に勤めるサラリーマンと、スーパーのレジ打ちであり別の顔も待つ女性との交流が、疲れ気味の世の中を生きる人たちを癒やす。

 松木いっか『日本三國』も「マンガワン」連載作品。パンデミックや核戦争によって政治体制が崩壊した日本列島で、3つの国が分裂して立ち上がってからおよそ一世紀後を舞台に、新たな三国統一を目指す者たちによる戦いが描かれる。混沌とする世界情勢や経済情勢を思うと、荒唐無稽とも言えないところもあって読み逃せない。

 秋田書店のサイト「スーフル」で連載中のトマトスープ『天幕のジャードゥーガル』は、13世のモンゴル帝国が舞台。イラン出身で医学や科学の知識を持った女性ファーティマが後宮に入り、オゴタイ帝の第6夫人ドレゲネと出会って起こる出来事が描かれる。森薫の『乙嫁語り』にも重なるところがある、中央アジアの人々や習俗に触れられる作品だ。

 紙の週刊少年漫画誌からは、「週刊少年ジャンプ」で連載中の馬上鷹将、末永裕樹『あかね噺』がノミネート。落語という古典芸能の世界に魅せられ、飛び込んでいった少女の奮闘を描くストーリーからは、落語の面白さと難しさが同時に感じられて、寄席へと足を運びたくさせる。

 月刊では「ゲッサン」で連載中のとよ田みのる『これ描いて死ね』が入った。漫画好きの少女が漫画を描き始めるようになっていくストーリーは、『まんが道』や『バクマン。』と同様に漫画の面白さと漫画家を生み出す大変さを教えてくれて、漫画をもっと好きにさせてくれる。

 『シグルイ』『覚悟のススメ』で熱いファンを持つ山口貴由がビッグコミックスペリオールで連載している『劇光仮面』もノミネート。劇光服という特撮用のヒーロースーツを軸にして、特撮への思いを抱く人たちが活躍するストーリーと、濃さに溢れた絵柄によって、仮面ライダーシリーズやスーパー戦隊シリーズが今も盛り上がっている特撮シーンの凄さの神髄を浮かび上がらせる。

 女子校で国語教師をしている男性の星が主人の和山やま『女の園の星』は、第3巻が出たことでノミネート。これまでと同様に"女子校あるある"エピソードが連発されて楽しめる。3年連続のノミネートとなるだけに今度こそは受賞があるか。

 ノミネート漏れとなった作品についても少し。口コミで評判となっているいしいひさいち『ROCA 吉川ロカ ストーリーライブ』は、やはり自費出版ということで届く範囲が一部に限られた可能性がありそう。第8巻で完結して最後の機会となりそうだった魚豊『チ。―地球の運動について』は、逆に有名になりすぎて遠慮された可能性がありそう。松本直也『怪獣8号』も同様に最後のチャンスだったがノミネートから外れた。

 『チェンソーマン』や『SPY×FAMILY』『進撃の巨人』といった、大ベストセラーになる作品でも、幾度かのノミネートをへながら受賞を逃すところがあるのが「マンガ大賞」。一方で、『ちはやふる』『テルマエロマエ』のように後に大評判となる作品が受賞するところもある。その意味で先物買いの傾向がある「マンガ大賞」が今回選ぶ受賞作は何になるのか。これから選考員がすべての作品を読んだ上で投票し、最高票を取った作品が「マンガ大賞2023」に輝く予定だ。

※トップ画像は「マンガ大賞」公式HP(https://www.mangataisho.com/)より

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