『ラブライブ!サンシャイン!!』に見るアニメ聖地巡礼の醍醐味 なぜラブライバーは何度も沼津を目指すのか

 長らく続いたコロナ騒動に伴う規制も緩和されつつあり、日本の観光地に客足が戻りつつある。そんな中で注目されているのが、アニメの舞台を巡る“聖地巡礼”だ。2022年12月16日にはアニメツーリズム協会から「訪れてみたい日本のアニメ聖地88」2023年版が発表されたが、聖地が多数選ばれているのが『ラブライブ!』シリーズである。

 なかでも『ラブライブ!サンシャイン!!』の舞台になった静岡県沼津市は、市内各地に聖地が点在し、アニメ終了から数年経った今もなお多くのファンが訪れている。聖地のひとつである「安田屋旅館」に筆者が宿泊した際、偶然ラウンジで会ったラブライバーのとんこつ(24)氏に聖地巡礼の醍醐味について話を聞いた。

『アニメツーリズム協会公式 アニメ聖地88Walker 2022』で数多く紹介されている聖地のひとつが、『ラブライブ!』シリーズの舞台である。表紙に描かれた澁谷かのんは、シリーズ最新作『ラブライブ!スーパースター!!』の主人公。

『ラブライブ!サンシャイン!!』聖地、沼津の魅力

――とんこつさんが考える聖地巡礼の魅力は何でしょうか。

とんこつ:アニメで見た風景が目の前に現れる感動が、一番の魅力だと思います。『ラブライブ!』シリーズの舞台になった町は、主なもので秋葉原周辺、沼津、お台場、原宿周辺など各地にありますが、いずれもその土地ならではの魅力があります。一押しの聖地を選ぶのは難しいですが、行った回数でいえば『ラブライブ!サンシャイン!!』の沼津が圧倒的ですね。何度も通っているうちに、今ではすっかり沼津という町のファンになっています。

――沼津がラブライバーのツボにはまるのはどんな点でしょうか。

とんこつ:沼津は地域全体で作品を盛り上げてくれている感じがするんですよ。沼津駅に降り立った瞬間から『ラブライブ!サンシャイン!!』の絵や広告が目につき、商店街を歩いていると幟やイラストが飾ってあるので、徒歩でも車窓からでも作品の世界観を感じられます。そして、アニメの放映が終わってから時間が経つのに、未だにコラボ企画が実施されています。地域ぐるみで作品を大事にしてくださっていることが伝わってくるので、ファンとしては本当にありがたいです。

――イベントがない日でも、何度も訪問してしまうそうですね。

とんこつ:アニメの中で季節が巡っているように、沼津も四季折々の風景が楽しめるので、何度も出かけてしまうんです。秋から冬にかけては空気が澄んで富士山がきれいに見えたり、夏は海風が気持ちよかったりするので特別感があります。時間帯が違えば町の表情も変わるため、訪れるたびに何度も写真を撮ってしまいます。

――とんこつさんが風光明媚な沼津のファンになったことがよくわかります。魅力は尽きませんね。

とんこつ:沼津では声優さんが訪れた場所もたくさんあるので、二度おいしい聖地なんですよ(笑)。アニメのブルーレイの特典に、声優さんが聖地を巡る企画があります。アニメに出てくるお菓子屋さんの「松月」は、店内にサイン色紙がたくさん飾られています。それを見て、ああ、ここに声優さんが来たんだなと思うと、胸にこみ上げるものがあるんです。

沼津駅前もアニメの作中に数多く登場。駅に降り立った瞬間から旅は始まっているのだ。写真=とんこつ
キャラクターが車体に多数描かれたラッピングバスも運行されている。ちなみに東海バスの車両やバス停もアニメに登場するため、バスに乗ること自体が作品世界に浸る行為になるのだ。写真=山内貴範
松月の銘菓「みかんどらやき」はドラマCDに登場。みかんの産地である沼津らしいお菓子で、訪れたファンは必ずと言っていいほど買い求める人気商品である。写真=山内貴範
「松月」の店内には声優さんのサインも。アニメでは、店内でAqoursのメンバーが作戦会議を開いたりと、登場回数も多い。写真=とんこつ

主人公・高海千歌の実家のモデル「安田屋旅館」

――沼津に数ある聖地の中でも、特に「安田屋旅館」は何度も訪問されているそうですね。登録文化財になっている格調高い建物で、太宰治ゆかりの宿として知られますが、高海千歌ちゃんの実家のモデルとして有名です。

とんこつ:安田屋旅館は特別な存在で、これまで数えきれないほど泊まっています(笑)。作中の登場頻度も高く、どこを切りとってもアニメに出た場面というのも嬉しいです。

――安田屋旅館に初めて宿泊された日のことは、覚えていますか。

とんこつ:安田屋旅館は、僕に『ラブライブ!』を布教してくれた高校の同級生と一緒に宿泊しました。ちょうど、西武ドームでAqoursのライブに行った日、勢いで問い合わせたら空室があったんです。

――館内に入ったときはいかがでしたか。

とんこつ:感動しました。千歌ちゃんの実家ということもあって、ここで生活しているのか……と感慨深くなりましたし。夜にラウンジに行ったらほかのラブライバーの皆さんもいらっしゃって、楽しい時間を過ごせました。これを機にリピーターになった感じです。

――知り合った方と仲良くなって、一緒に宿泊したこともあるそうですね。

とんこつ:そうですね。安田屋旅館で知り合った人は多いですね。年齢も離れていて仕事もばらばらなのに、ラブライバーという共通事項があるので仲良くなれるんですよ。普通なら繋がれない人ばかりなのに、共通の趣味があるだけでこんなに盛り上がれるのも、『ラブライブ!』ならではだと思います。

安田屋旅館は、昭和22年(1947)に太宰治が『斜陽』を執筆した旅館。とんこつ氏曰く「日帰り入浴も受け付けているので、気軽に館内に入れるのも魅力」なのだとか。写真=とんこつ
旅館の中には高海千歌のパネルやPOP、声優やアニメスタッフのサインなどが展示されている。写真=とんこつ
安田屋旅館は「温泉、食事、空気感を含めてファン」であると語るとんこつさん。「海側の部屋になったときは、窓をあけて波の音を聞くのも好き」なのだという。実に贅沢で、羨ましいひと時である。写真=とんこつ

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