祝・新成人 又吉直樹&ヨシタケシンスケのトークショーで気づいた、本好きではない人にこそ教えたくなる本の魅力


 お笑い芸人で芥川賞作家でもある又吉直樹と、人気絵本作家のヨシタケシンスケによる共著『その本は』。2022年7月に発行された本書は、幅広い層の読者に支持され、30万部を超えるベストセラーとなった。

 この作品が生まれたのは、4年前にポプラ社が主催した児童書のイベントでの二人の出会いがきっかけだったという。又吉はアンバサダーとして、ヨシタケは受賞者として登壇しており、閉会後に談笑。又吉はもともとヨシタケのファンであり、またヨシタケも芸人に対しての憧れと尊敬があり、互いに違う立場でありながらも、「ものづくり」の深いところで通じ合い、時を経て共に本をつくることになった。その出会いの場所が、荒川区にある図書館「ゆいの森あらかわ」だった。

 そんな二人の思い出の地で、選ばれた130人の読者を前に行われた対談では、『その本は』の制作秘話や、本を愛する二人の話、本との向き合い方や本が持つ魅力など、本ばなれや本があまり好きではない人にこそ、知ってもらいたい内容だったので、ここで紹介していきたい。

「本が苦手な人に本を薦めるのはすごく難しい」(又吉直樹)

 トークショーは、「『その本は』ってどうやってできたの?」という質問を皮切りに始まった。前述のように児童書のイベント後に談笑していた二人の会話を近くで聞いていた編集者が、「この話、面白いから皆に聞いてもらいたい!」と企画を立てたことでスタートしたそうで、コロナ禍だったこともあり、対面ではなくリモートでの打ち合わせが重ねられて作品のプロットが出来ていったという。

ヨシタケ:違う分野で本を描(書)いている二人が、普段とは違う形で一緒に本をつくれないかという提案がありました。本ってやっぱりいいなと思えるようなものをつくりたいとのことで、広いなあって(笑)。でも話していくなかで、小説も絵本も入った「本」がテーマの短い話をたくさん集めてはどうだろう、となりました。星新一さんの『ノックの音が』(新潮社)からヒントをもらって、「その本は」で始まる小さな話を集めてみることになったんですよね。

又吉:話をつくっていく過程はすごく楽しかったですね。

 そうやって二人の打ち合わせが続いていくうちに、7回目の打ち合わせで50を超える物語が溜まり、本にするには十分な量になったという。最後に又吉には、少年が主人公のひとつの長い物語を書くこと、ヨシタケには、これまでつくったすべての話がつながるような世界観をまとめるプロローグとエピローグを描くことが課題として出されたという。そして、『その本は』という一冊の本の形が完成した。

又吉:「本があまり好きじゃないんですが、そんな人にもおすすめの本はありますか?」と聞かれることがあって、本が苦手な人に薦めるのってすごく難しいと感じていました。でもこの本が、そんな時に紹介できる本になればいいなと考えていて。本を読み終えた時の読後感が次の作品を読むきっかけにつながると思うのですが、この本には短い話がいっぱいある。だから読みやすいし、読書の面白さも感じられる。本が苦手だけど読んでみたい人の最初の本になれば嬉しいし、たくさん本を読んできた人にも楽しんでもらえると思います。

 さらに二人は新しい表現のジャンルに挑戦できたと語っている。それは主に純文学を書いている又吉作品の読者であり、ヨシタケの絵本を読む小さな子どもたちにとっても新鮮な作品で、作者だけではなく読者にとっても間口を広げる作品となっている。

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