香港の怪しげな巨大ビル「チョンキンマンション」の独特な論理とは? 文化人類学で考察

チョンキンマンションの魅力を読み解く

 NHKで2017年の放送後に大きな話題となったドキュメント72時間「香港 チョンキンマンションへようこそ 特別編」。本日の午前2時1分より再放送され、旅好きのあいだで再注目されている。

 ひとつの現場にカメラを据え、72時間にわたって定点観測をする同番組。この回で向かったのは近未来都市・香港だ。街のメインストリートにある「チョンキンマンション(重慶大厦)」を活写した。

 チョンキンマンションは、香港を象徴する有名な巨大雑居ビル。多国籍で猥雑な雰囲気を醸し出しており、バックパッカーをはじめ多くの人々を魅了してきた。沢木耕太郎の紀行小説『深夜特急』やウォン・カーウァイの映画『恋する惑星』『天使の涙』などでもお馴染みだ。

 そんなチョンキンマンションの知られざる一面を示す名著が、小川さやか氏の学術エッセイ『チョンキンマンションのボスは知っている アングラ経済の人類学』(春秋社)だ。 本稿ではそこで考察される意外な内容を紹介したい。

 小川氏はもともと東アフリカのタンザニアでフィールドワークをしていた文化人類学者。本書は2016年に香港中文大学に客員教員として所属した際の経験をベースとしている。

 小川氏が着目するのは、チョンキンマンションに集うタンザニア人たちだ。「難民」や「不法滞在者」など様々な立場である彼らは、香港で仕入れたものをアフリカに売ったり、その仕入れのために訪れた滞在者の仲介をしたりしている。小川氏は、2000年代初頭に香港にやってきた中古車ディーラーの開拓者、カラマ氏と出会う。彼は「チョンキンマンションのボス」を自称していた。

 いかにもアンダーグラウンドでイリーガルな話を期待するかもしれない。もちろん、そうした香港ファンタジーを生み出してきたのが、チョンキンマンションであるだろう。しかし同時に、そこには意外な助け合いの論理が働いていることが示されている。小川氏は「『ついで』の論理」として考察する。

 カラマ氏はこれまでに見ず知らずの若者を含めて、膨大な人間の面倒を見てきたという。理由を尋ねると「チョンキンマンションのボスだからね」と返答するのだが、小川氏はそこにある「適当さ」が秘訣だと見た。

 彼らは「案内してほしい」と言われた場所が自分の目的地と近かったら連れていくし、すでに知っていることなら教える。そうした助け合いは「ついで」にやることでまわっているというのだ。

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