香港の怪しげな巨大ビル「チョンキンマンション」の独特な論理とは? 文化人類学で考察

チョンキンマンションの魅力を読み解く

 それは昨今、急速に普及したシェアリングエコノミーの論理と近しいと指摘される点はとても興味深い。UberやAirbnbなど、スペースや時間が余っている際のちょっとした人助け・アルバイトと重なる部分があるだろう。

 本書で示唆されるように、日本風に他者の深い事情まで踏み込み、生真面目に助け合うというのは、けっこう面倒なことでもある。「あの人には恩があるから断れない」「いつか借りを返さないといけない」といった論理で動く関係性は、どこか窮屈だと感じないだろうか。

 しかし、本書の「ついで」を軸とした助け合いの論理を見ていると、その軽やかさと自由さに感心してしまう。それはもちろん合理性を信奉する資本主義の論理ではないし、かといって相手に絶対的に何かを捧げる贈与とも違う。新たな経済の可能性を示唆しているだろうし、そこまで大仰に言わなくとも、こういう風に生きていきたいとさえ思わせられるのだ。

 多くの人々を魅惑してきた有名観光スポット・チョンキンマンション。もし今後訪れる機会があれば、本書を片手にそこにたむろする人々に一言話しかけてみるのはどうだろう。既存のイメージとは一味違った、新しい世界が広がっているに違いない。

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