著者だたろうに訊く、漫画『北欧ふたりぐらし』から考える幸せのあり方。スウェーデン人から学ぶ「同調圧力のない自由な思考性」

——なるほど。ちなみに登場するスウェーデン人のリアクションや受け答えなど、日本人とは違う感覚もあると思うのですが、どのようにかき分けていますか?

実は、結構日本人と似ているなと感じる部分も多いんです。「ラーゴム」というスウェーデン人の概念があるんですが、「ちょうどいい」「多すぎず少なすぎず」といった意味で、漢字だと「中庸」が近い言葉ですかね。日本人も「ほどほど」だったり「控えめ」というものに美徳を感じていると思っていて、それが根底にはあるとは思うんですよね。ただ、仕事や学業となると、急に全力疾走ですごいスピード感。それが常態化していてみんなに合わせてそうしなきゃと思ってしまっている。でも、スウェーデンでは人それぞれ。歩いている人もいれば走っている人もいる。それでいいとみんなが認めているんです。

 たとえば、公共交通機関でも、運転手が家の用事があるから帰りますということがまあまああるらしいんですよね。日本だとあり得ないですけど、それをわがままと捉えるか、仕方ないと思うかなんです。心のゆとりはスウェーデンで暮らす人の方があると思います。そんな風に暮らしている人たちを描きながら、「自分は締切守らなきゃ」って思うのは変な感じですけど(笑)

——確かにそうですね(笑)。他に文化や考え方の違いを感じることはありますか?

福祉大国で幸せな国、医療が充実しているという最初にもっていたイメージが少し変わりました。例えば日本だと、風邪気味と思えばすぐ医者に行けますよね。スウェーデンだと予約が取れるまで何日もかかるそうです。行く頃には治っていたり……そういう細やかな日々のケアというよりは、出産費用が無料であることや充実した福祉制度など、大きな局面での安心感があるという印象です。

あと、面白いところでは、マンションの管理組合にみんなこぞって参加したがるらしいんです。自分たちの暮らしを自分たちで良くしたいからと、人任せにしない。最近政権も変わっていますよね。投票率を見ても、一人一人がきちんと考えて行動しているのだと思います。

——国民性もあるのでしょうか?

幼少期からの教育方針ではあるようです。先生から言われたことをやるのではなく、子供たちがどうしたいかを聞いて、大人はそれに応える。子供の頃から自分の意見が自分の今後の生活に反映されるという意識が芽生えるんでしょうね。

——先ほど医療の話が出ましたが、これから先、主人公たちが暮らしにくいと感じることも出てきますか?

現実に、両手をあげて楽しいと思うことばかりではないのは確かです。冬のスウェーデンは日照時間が短く、気が病んでしまう人も少なくないようです。でも、室内の装飾を楽しんだり、太陽に感謝する夏至祭があったり……そういう状況だからこその文化や景色がそこには広がっているんだと思います。私もネガティブに感じてしまうことも、前向きに表現していきたいです。

ちなみに、日照時間でいうと、朝昼晩のかき分けが大変で。日本が舞台であれば、朝日が当たれば朝なんですが、夏はずっと明るいし、逆に冬は暗いし、時間帯の表現が難しいです(笑)。

——たしかに読者としては、漫画の背景から時間帯を認識することが多いですもんね。本作を描かれたことで北欧文化にふれることが多くなったと思います。それによって自分自身の暮らしに変化はありましたか。

今までは、休日と決めた日も仕事のことを考えていたんですけど、切り替えて何も考えないようにしています。休むことに罪悪感なんてないよね、と思うようになりました。
それから、毎日来てくれる郵便や宅急便の配達員さんへの感謝の気持ちも沸々と湧いてきています。日の光の偉大さを感じて、なるべく散歩をしたり……仕事上どうしても引きこもりがちになってしまうので、太陽を浴びようと意識しています。

——いろんなことに感謝の気持ちが出てきたんですね。読者の方にはこの漫画を通して何を感じてほしいですか?

最初に話をしましたが、私自身がスウェーデンに癒されていたのは、なんとなく気分がふさがっていて、行き詰まっている時でした。ちょっと疲れたな、仕事が嫌だな、と感じることは常にあると思います。そんな時、コーヒー片手に読んでもらえたら嬉しいですね。

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