奥華子「自分の命の価値についてすごく考えさせられました」小説『さよならの向う側』を読んで
「あなたが最後に会いたい人は誰ですか?」。死後、一度だけ現世へ戻ることができる。しかし、会えるのは自分の死を知らない人だけ。そう告げられた人々は、自分の人生を振り返る――。
2021年6月に発売された清水晴木著の『さよならの向う側』(マイクロマガジン社)は、様々な登場人物が生と愛に向き合うオムニバス形式の小説。2022年5月には続編となる『さよならの向う側 i love you』が刊行され、同年9月にはテレビドラマ化もされた。2冊の本には、合計10話が収録されており、毎回異なる登場人物にスポットが当たっていく。幼い息子をもつ中学校教師、バンドのボーカリスト、山奥に住む画家……。年齢も属性もバラバラの人々が平等に死を迎え、そして大切な人との再会を果たしていく。
この儚くも優しい物語を描いた清水晴木は、シンガーソングライター・奥華子の楽曲『変わらないもの』(2006年)をはじめとした作品群を聴き、その世界観に影響を受けていたという。奥華子もまた、この物語に通じるものを感じるのではないか。リアルサウンドでは、実際にこの小説を奥華子に読んでもらい、インタビューを行った。
すべての人にとって他人事じゃない物語
「とにかくバリエーションが豊かですよね。“自分が死んだことを知らない人にしか会えない”という条件の中で、こんなにもたくさんのストーリーが描かれていることに感動しました。しかもその全てが自分に置き換えられる。すべての人にとって他人事じゃない物語になっているんです。だから『私だったらこのときどうするかな』と考えながら読みました。読むとわかるんですが、彼らが会いに行く相手は、実は人間だけじゃないんです。だからこそ、『あなたにとって大切な存在は、家族や恋人だけじゃないんだよ』と言ってもらえた気がします」
1冊目の『さよならの向う側』第1話の「Heroes」では、中学校教師の女性が、子犬を助けて事故死してしまう。彼女が最後に会いにいったのは、最愛の幼い息子だった。物語の幕開けを飾ったこの切ないストーリーに、奥華子は強く惹かれたという。
「まさに究極の選択ですよね。子どものために自分も生きなきゃいけないけど、目の前で轢かれそうになっている命を見殺しにできるのか。どちらが正しいことなのか。自分の命の価値についてすごく考えさせられました。映画やドラマで描かれる死って大体物語や理由があるけど、現実の死はもしかしたらもっとあっけないものなのかもしれないですよね。たくさんの死と直面している小説だからこそ、逆に今自分が何十年も生き延びていることってすごい奇跡なんだなと改めて思いました」
続いて第4話「サヨナラの向う側」は、バンドのボーカリストが主人公。バンドメンバーと最後のライブを成し遂げるために現世へ戻り、生きている間に完成させられなかった歌詞を書き上げる。
「すごくいいなと思いました。自分が何のために生きているのか、自分にとって何が大事だったのかって、結局死ぬまでわからないものかもなってよく思うんです。でも死んだあとの気持ちって絶対に生きている間はわからないじゃないですか。もし私も主人公の美咲のように死んだあとに詞を書けるなら、自分が一番言いたいことを歌えるんだろうなって。しかもそれを大切な人に届けられるって最高ですよね」
2冊目の『さよならの向う側 i love you』の第1話「月の光」は、山奥に暮らす画家の物語。現世に戻ったとき自宅で火災が発生し、人生を捧げて描いてきた自分の絵画が燃えていく中、彼が炎の中から唯一救い出したのは孤独な日々に寄り添ってくれたスマートスピーカーだった。
「自分が作り出した作品ってもちろん大事なんですけど、作品そのものには命がないんです。私も曲を作っているけど、その曲自体に命はなくて、それを聴いてくれる人、思ってくれる人がいるからこそ価値があるんだなって思うんですよね。だから、彼が最後に選んだものが自分の作品ではなかったという結末に、私はすごく納得しました」