『ダイヤのA actⅡ』駆け足の最終回めぐり賛否も、“美しいエンディング”と言える理由

『ダイヤのA』最終回は美しい?

 人気野球漫画『ダイヤのA actⅡ』が本日10月26日発売の「週刊少年マガジン」誌で、16年に及んだ物語を完結させた。

 誌面には米メジャーリーグで“漫画以上”の活躍を続ける大谷翔平や、ロックバンドGLAYのTERUなど、同作を愛する著名人からコメントが寄せられ、続編を希望する声も上がっている。一方で、やや駆け足にも見える最終回に、SNSでは議論が紛糾。「#打ち切り」というハッシュタグがトレンド入りする状況となった。作者・寺嶋裕二はファンが読みたかった「帝東×鵜久森」の一戦について描く構想こそ明かしているものの、最終回は「第二部 完」ではなく「完」と締めくくられており、本当に終わってしまうのか、と悲しむ愛読者の声が多く聞こえている。

 『ダイヤのA actⅡ』は2006年に連載を開始した『ダイヤのA』の続編で、2015年よりスタート。廃校が決まった地元中学校の仲間たちに後押しされ、高校野球の名門・青道高校に入学した投手、沢村栄純の奮闘を描いた作品で、『actII』では二年生の夏、甲子園に向けた新たな挑戦が続いてきた。

 最終回は誌面で実際に確認していただきたいところだが、16年かけて「二年生の夏」まで、球児たちの成長、苦悩や喜びをじっくり丁寧に描いてきた作品だけに、確かに場面が急に飛び、「これから」というところで駆け足で物語が締めくくられた印象を抱く内容だった。しかし同時に、キャラクターたちを丁寧に掘り下げ、高校野球に対する愛情を持って描かれてきた『ダイヤのA』という作品だからこそ、“その先”を読者の想像に委ねるエンディングは、美しいとも思える。

 作者の寺嶋裕二は、自身が香川県出身の元高校球児だ。高校野球の魅力と、その裏にある現実を熟知しているからこそ、地道な練習も妥協なく描き、「魔球」や「悪役」に頼らず、リアリティのある物語を紡いできた。だから、沢村たちがどのように勝利を目指し、敗戦からどのように学ぶのか、読者はよく知っている。ファンとしては、甲子園での大活躍という“ご褒美”にどうしても期待してしまうところだが、描かれるべきことはもう描かれてきた、と捉えることもできるのではないか。「結果」より「過程」を細やかに描き続けてきた『ダイヤのA』の最終回は、これでいいのだと。

 付け加えるならば、甲子園には魔物がいるし、勝者も敗者も等しく、野球に青春をぶつけた高校球児には、それぞれに物語がある。そのリアリティを持って考えれば、『ダイヤのA』の世界でも、沢村以上の“原石”がいまもどこかで磨かれているはずで、その努力が報われない選手が大半かもしれない。勝敗以上に、毎年繰り返される、そのドラマに思いを馳せることこそ、高校野球の本質的な魅力に思える。『ダイヤのA』の終了は惜しまれるが、最後まで愛すべき作品だった、と言いたいところだ。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる